本気子の部屋

短歌、回文、日常を綴ります。

うたの日・お題「泥」

泥水を浄水にするフィルターになってみせるよ君を守るよ

 

 20代の頃、私は三菱レイヨン浄水器の販売をしていた。

 初めは、単発の仕事で土日だけ、ヨドバシカメラビックカメラで。この時の売り上げがあまりに良かったものだから、当時の派遣会社の取引先であった三菱レイヨン浄水器販売を担当する派遣会社の営業部長にとても気に入られて、私の派遣会社宛に

「うちは小島さんと仕事がしたいから、小島さん以外のスタッフはよこさないで」

と要望があったらしい。この時、私の給料はその会社の定めてる最高日給の8000円だったのだが、この浄水器販売をきっかけに9500円にまで上げていただいた。

 だが、そんなに目立つ売り子を放っておかないのが派遣会社業界というもので、私は、同じ売り場でマッサージ機の販売をしていたおばさまに

「あなた、今、お給料いくらもらってるの?」

と訊かれ金額を答えると

「うちにおいで。もっとお給料いいわよ!」

とスカウトされ、そのおばさまのいた派遣会社に移り、三洋初の女性販売員として冷蔵庫の販売をすることになったのだった。日給は13000円に上がった。

 が、その後、私が派遣されていた店と三洋側との商品の価格交渉が決裂し、その店では三洋の販売員は勤務させないということになった。だが、その店でも私は可愛がっていただいていたので、店側から、

「今度、うちで浄水器の販売に力を入れることになったんだけど、冷蔵庫の次は浄水器を売ってみない?」

と言われ、そのまま店に残ることに。そして、浄水器の販売の派遣会社として紹介されたのが、単発で浄水器を売っていた時に私を評価してくださった営業部長がいる会社で、私は、そこの派遣社員となったのである。勤務時間は8時間から6時間に減ったのに、日給は2000円も上がり、15000円になったのだった。

 話は前後するが、結婚を考えるくらい好きで5年間お付き合いした恋人と初対面を果たしたのも、実は、土日だけ浄水器を売っていた時だった。私と彼は、全国に何人もいるチャット仲間のひとりだったのだけど、私が、土日だけ錦糸町ヨドバシカメラ浄水器を売ることになったと掲示板に書き込んだのを見て、アポなしで店に顔を出してくれたのである。その時、彼は、モスグリーンのスーツを着ていて、私はまだ三菱レイヨンの営業担当の人とは面識がなかったから、彼に声をかけられた瞬間

(なんて素敵な営業さん!)

と思ったのであった。彼は、

「たまたま、こっちに用があったから」

と言っていたが、後に、本当は私に一目逢いたくて、わざわざ千葉から来てくれたということを白状した。もし、私が浄水器販売の仕事をしていなかったら、彼はずっと尊敬しているけどプライベートは一切謎のチャット仲間のままだったかもしれない。

 浄水器というのは、本当にすごいもので、この歌のとおり、泥水でも飲用水として飲めるようにしてくれる高性能のものがある(ただし、フィルターはすぐ目詰まりする)。

 人を愛するということは、どんな苦労も悩みもその人と共にすることを辛いと思わずに生きてゆくことではないかと思う。相手の苦しみは全部自分が引き受けてあげたいと思えるほど心から好きになれる人となら、自分は泥まみれになって何を犠牲にしてもただ一緒にいるだけで幸せなのである。