本気子の部屋

短歌、回文、日常を綴ります。

今日の自由詠

風呂つきでネカフェ難民より安く生活できる八王子なら

 

 私は、大学進学を機に上京してそのままずっと八王子に住んでいるけれど、八王子はとても暮らしやすいところだ。

 JR中央線京王線横浜線八高線も通ってるから移動にもとても便利だし、八王子駅前は意外と発展していて、生活に必要なものはほとんど揃う。大きな市場もあるから、食料品も安くて美味しい。

 でも、特に私が八王子を離れられない理由は家賃の安さである。

 私の住むアパートは、私が大学を中退してから引っ越してきた時、39000円の家賃だった。敷金1ヶ月分はかかったけど、礼金も更新料もないという。ユニットバスだけどお風呂つきでガスのキッチンで、共同だけど洗濯機までついてて、駅まで自転車なら3分くらいという立地条件の良さを考えてもとても安くていい物件だと思った。

 おまけに、大家さんはとても優しくて、秋には

「美味しそうな秋刀魚が安かったから。よかったら大根おろしも作ってね」

と秋刀魚と大根をくださったり、

「いただいたりんごがとても美味しかったから」

と蜜入りの立派なりんごをおすそわけしてくださったり、クッキーを缶ごとポストに入れていてくださったり、

「たまにはお茶でもしにいらっしゃい」

と言ってくださるような方だった。

 私の病気にも理解を示してくださって、私が主治医以外の人と会話をするのが困難だった6年間は、ずっと手紙とショートメールだけのやり取りをするのに協力してくださったし、こんなに安い家賃なのに滞納してしまった時も最大で半年分まで待ってくださった。

 ある時、このアパートの住人が減ってきたから家賃を安くすることにしたと連絡をいただいた。2000円安い37000円になった。でも、そんな話、黙っていれば私にはわからないことである。家賃を値上げする話ならわかるが、値下げしてくださるなんて、なんて良心的なんだろうと思った。

 さらに、去年、あまりにも住人が少ないからアパート全体を老人介護の施設にすることになり家賃も30000円にする、家賃の支払い先が大家さんでなく間に入ってる業者に替わるので、払い込み手数料込みで30000円になるように交渉したと言われ、本当にこの大家さんと出会えたことは幸せだなあと思った。おまけに、部屋もリフォームしてくださるという話だったのだけど、それは、まだ、私が散らかった部屋の掃除や片付けのできる気力と体力がないため丁重にお断りした。

 通勤手当てはだいたいどこの職場でも出るけれど、住宅手当てまでだしてくれる職場は稀だということを考えると、私は都心で暮らそうと思ったことがない。少し通勤時間は長めでも、家賃の安い八王子に住むことで、ちょっといいものを食べたり、本を読んだり、ライブに行ったりする方が自分のためになると思った。

 というわけで、今のアパートで暮らしてもう16年になる。もしも、この先、奇跡が起きて、こんな私でもお嫁にゆけることになったらこのアパートから引っ越すことになるはずだけど、独身の間はずっとここに住んでいたいと思っている。