本気子の部屋

短歌、回文、日常を綴ります。

藤木大地さんのこと

 10月19日に公開される村上春樹さん原作の映画「ハナレイ・ベイ」の主題歌を、カウンターテナーの藤木大地さんが歌われることと、10月24日にその主題歌であるマルティーニ作曲「愛の喜びは-Plaisir d'amour-」が収録された『愛の喜びは』というアルバムでメジャーデビューされることが発表されて、とても喜んでいる。

 というのも、私は、藤木大地さんが高校生で、まだ、テノールだった頃からのファンであり、藤木さんの高校の2学年後輩であり当時は指揮者を目指して勉強していた私の弟が、とてもお世話になったからだ。

 弟の通っていた高校は県立の進学校で、音楽科があるような学校ではなかった。特に、藤木さんは、文科情報科という特進クラスにいらしたので、勉強もそうとうハードな中での東京藝術大学受験だったと思う。昼休みの音楽室で、同じ大学を目指す弟に藤木さんはとても優しく接してくださったという。

 藤木さんは、その類いまれなる才能と努力で現役で東京藝術大学の声楽科に合格されたのだけど、その後も、弟の受験に力を貸してくださった。夏休みに、私立の音楽大学セミナーを受講するために上京した弟に、ごはんをごちそうしてくださったり、ご自分の周りの音楽科の友人や先輩などと弟を引き合わせてくださったり、ご自宅のピアノを弟の練習のために貸してくださったり。

 私は、藤木さんにお礼のお手紙を出した。すると、顔も声も美しい人は、文字までこんなに美しいのか!と驚くような、硬筆の先生のお手本のような柔らかく美しい文字で綴られたお返事が届いた。

 藤木さんが東京藝術大学を卒業されて、国立オペラ研修所に入られた時も、オペラを拝見するためにチケットを取っていただいたりした。藤木さんは筆まめな方で、旅先のウィーンから絵葉書をくださったこともあり、それは宝物として今でも大切にしている。

 弟が音楽の道を断念してからはご連絡はしていないのだけど、藤木さんが高校時代からずっとどんなに真剣に研鑽を積まれてきたのか、その中で関わる人ひとりひとりをいかに大切にされてきたのかは、藤木さんと交流をしたことのあるひとりとして想像できるので、彼が、こうして、日本を代表する世界的なカウンターテナーになられたことは涙が出るほど嬉しい。

 これから、ますますご活躍されると思うけれど、藤木さんは歌声も最高だけど、人柄が本当に素晴らしい方なんだよというのは、これから藤木大地さんを知る人みんなに伝えてゆきたいことである。