うたの日・お題「右」
怒り肩でもよかったら右肩を枕にどうぞ駅に着くまで
子供の頃から、怒り肩がずっとコンプレックスである。
ピアノを弾けば、先生に
「もっと肩の力を抜いて!」
と言われ、肩を上げて下ろしてみせるんだけど、それ以上は下がらず
「先生、ごめんなさい。この肩、生まれつきなんです……」
とショボンとしたこともあるし、スーツなんかを買うと、まず、最初にやるのが、肩パットを外す作業だったりする。
さらに、私には、歳をとった時に着物の似合うおばあちゃんになりたいという夢があったのだけど、怒り肩では着物は似合わないと知り、ずいぶん落ち込んだものだ。
でも、こんな怒り肩でも、電車の中では、よく、見知らぬ人がもたれかかってきて、そのまま眠ってしまっていることがよくある。今日なんか、右肩にはおじさん、左肩には若者がもたれかかってきて、45分間ずっと枕にされていた。眠っている人を起こすのも可哀想なので、こういう時、基本的には私はそのままじっとしている。
20代の時、私の恋人だった人は警察官だったから、よく、彼が24時間の当番を終えた非番の日にデートをした。新宿で逢うことが多かったので、電車にもよく乗ったんだけど、睡眠不足の彼は電車でうとうとして、私の肩にもたれて眠っていた。本当は、ほとんど仮眠も取れない当番を終えた非番の日はゆっくり休みたいだろうに、いつも私と逢う時間を作ってくれる彼が愛おしくて仕方なかった。
でも、この先、私の肩を枕にして眠ってくれる人なんて、電車でたまたま隣に座った見知らぬ人くらいしかいないんだろうなと思うと、どうしようもない淋しさに襲われる。
実らない片想いをし続けるというのはそういうことだし、それを選んでいるのは、私自身だ。