本気子の部屋

短歌、回文、日常を綴ります。

うたの日・お題「君」

母親を照れずに褒めていた君を心の底で信じています

 成人男性が、自分のお母さんを素直に褒めることができるのは、グッとくる。
 ああ、この人は、とても温かい素敵な家庭で育ったんだなあと思うから。

 22歳くらいの頃、西新宿でコンタクトレンズ屋のビラ配りの仕事をしていたら、ちょうどオープンを控えた某家電量販店のビラ配りをしていたその量販店の男性社員に一目惚れされ、メールアドレスを書いたメモを渡されたことがあった。
 接客業らしく腰の低い優しそうな人だったから、私は彼とメールをするようになった。デートもした。
 でも、ある時、彼は、メールの中で、自分の母親を憎んでいると言った。彼とお母さんの間に一体何があったのかはわからない。でも、私は、何があったのか怖くて訊けなかったし、私自身も父親を憎んで育ったから、直感的に、私はこの人と一緒にいても幸せにはなれないと思った。
 彼に告白された時、私は、自分が創価学会員であると告げた。すると、私が想定した以上の拒絶反応を彼は見せた。 
「ごめん。君のことはとても好きだけど、俺、宗教だけはどうしてもダメなんだ。ごめん」
と。
 私は、内心、ホッとしていた。もし、創価学会員であることを彼が受け入れてくれたら、私は、不安を抱えたまま彼と交際しなくてはいけないことになったかもしれないからだ。彼がお母さんを憎んでいることを理由に彼を拒むことは私にはできそうになかったから、彼の方から振ってほしかった。
 自分のことを産んでくれた人を憎まなくてはならないのは、どんなに苦しいだろう。
 父親を憎むより、母親を憎む方がずっと辛い気がする。
 こういう人を優しく包んであげられるだけの精神力は私にはないし、もし、ふたりでいたら、不幸がふたり分になりそうな気がして、彼と恋人になるのは難しいだろうと思った。

 でも、たぶん、男性から見た私だって同じなのだ。自分の父親に殺意を抱くほど憎んでいる女なんて、おっかなくて付き合えないだろう、普通は。
 それを考えると、私と父との関係を知っても、私の宗教を知っても、私と5年間もお付き合いしてくれた恋人は、すごい人だったのだなあと思う。
 彼も、すごく、お母さんと仲のいい人だった。

 いつも、私が好きになるのは、そういう人だ。