本気子の部屋

短歌、回文、日常を綴ります。

うたの日の100人の短歌・第3グループ③深水きいろさん

 深水きいろさんは、短歌歴は短いんだけど、インプットを積極的にして自分のお歌を磨く努力を惜しまない人だなと感心しています。尾崎飛鳥さん、架森のんさんと出されたネットプリントでたんたまネプリこと『短歌のたまご』や、Twitterの #2019年自分が選ぶ今年上半期の4首 を集めたネット歌集『半年たったんか』を発行されたり。
 そんなきいろさんのお歌は、こんな発想は私にはできないなあと思う独創的なお歌が多いです。


こんな日は遠回りして六月の稲穂を褒めて歩いて回る/深水きいろ 2019年6月27日お題「褒」


 まず、こんな日というのがどんな日なのかよくわからないところが面白いです。私は、短歌で、指示語(こそあど言葉)というのはなるべく避けて詠もうとするんです。それは、自分では、指示語の指すものがどんな状態かわかっているけれど、読者にはそれが伝わらないのが怖いからです。でも、このお歌の場合、こんな日というのがどんな日だったのかを読者の想像に委ねているところがいいなあと思っています。
 主体の家、もしくは学校、もしくは職場にゆくのには、遠回りをすれば田んぼがあるようです。六月といえば、梅雨の時期。もしかすると、こんな日も、雨が降っていたのかもしれません。だけど、雨に濡れないように近道をするのではなく、わざわざ遠回りして稲穂を褒めて歩いて回るのです。たぶん、「こんなに雨が降っているのに、頑張って育って偉いね」なんて声をかけているのではないでしょうか。私も、田んぼの多いところで生まれ育ちましたが、今まで生きてきて稲穂を褒めたことなんて一度もないので、この主体の行為から、すごく繊細な優しさを感じました。
 そして、冒頭のこんな日に戻ります。もしかして、主体には、この日に泣きたくなるような辛いことがあって、それをひとりで耐えていて、誰かに励ましてもらったり褒めてもらったりしたい心境だったのではないでしょうか。その気持ちを共有できそうな相手が六月の稲穂だったと考えると、わざわざ遠回りしたのもわかるような気がするのです。