本気子の部屋

短歌、回文、日常を綴ります。

うたの日の100人の短歌・第7グループ⑨野良ミラノさん

 このうたの日の100人の中で、最も出詠数が少ないのが野良ミラノさんです。お気付きですか?名前が回文で、逆から読んでもノラミラノさんなのです。野良ミラノさんが出したお歌というのは回文短歌1首のみ。だけど、ブログに感想を書いてほしいというDMをくださった時は、本当に嬉しかったです!
 野良ミラノさんの回文短歌をうたの日で読んだ時、一目でハートだったのですが、この人はベテランの回文師ではないか?と思ったら、やはり、そうなのでした。igatoxin(いがときしん)さんとしてTwitterにいらっしゃいますが、普段はいがさんとお呼びしています。いがさんは、五十嵐龍也名義で『逆立ちしても読める本』というアンビグラムの作品集を出されていたり、たくさんの素敵な回文を作られている回文師でもあります。かつて、いがさんのスタイリッシュな回文をメンズノンノのモデルさんに例えたこともありました。
 うたの日でも簡単な感想は書いたのですが、改めて感想を書きます。


傘濡らし漏れ出す期待NOと聞き遠退いたキス誰も知らぬ坂/野良ミラノ 2019年9月12日お題「回文」


 回文短歌って、作ってみるとわかるのですが、まず、日本語として自然に意味の通る内容にすることがとても難しいのです。私も、たまに作りますが、意味不明でボツにするものがほとんど。
 でも、この回文短歌は、とても歌意がわかりやすいです。失恋のお歌です。
 雨の日に、傘をさして、主体は好きな人と一緒にいたのでしょう。たぶん、それまでがすごくいい雰囲気だったから、今想いを告げたらOKしてもらえるだろうと期待して、告白したのだと思います。そしたら、相手の返事はNOでした。もしかしたら、今日はキスさえできるかもしれない、そんな雰囲気だったのに。誰も知らない人ばかりがいる坂に、雨の中でひとり呆然と立ち尽くす主体の姿が見えるようではありませんか。
 この回文短歌の特にすごいなと思うところの一つ目が、定型ではなく、結句が字余りになっているところです。このおかげで、すごく自然な感じの日本語になっているように思います。
 次に、回文で、「キス」といえば逆さにすると「好き」なのですがこの回文短歌ではそんな安易な対応はさせていないこともすごいです。「漏れ出す期待」という表現が出てきたというのは、回文だから偶然なのかもしれないけど、本当によくこれを見つけられたなあと羨ましく思います。
 「遠退いたキス」という表現もとてもせつなく美しいです。
 私の理想の回文短歌だなと思いましたし、このレベルの回文短歌が作れるようになるのにあとどのくらいかかるだろうかと気が遠くもなりましたし、でも、野良ミラノさんの背中を追いかけて頑張らねばと思えたのでした。