本気子の部屋

短歌、回文、日常を綴ります。

うたの日の100人の短歌・第9グループ⑦有無谷六次元さん

 大変お待たせして申し訳ありません。有無谷さんにはこの企画を始めてから話しかけていただいたのでお互いのことはよく知らないのですが、お歌も新鮮な気持ちで読むことができました。



彼のためいつもきれいでいたいから私まいにち喪服を着るの/有無谷六次元 2017年8月24日・お題「服」

 思わずドキッとするお歌です。私の大好きなアニメ映画『魔女の宅急便』の中で、ヒロインの魔女の修行をしている14歳の女の子・キキが、自分の黒いワンピースに不満を持っているんですけど、そんなキキに対して、彼女が下宿しているパン屋さんの妻のオソノさんが
「それ、とってもいいよ。黒は女を美しく見せるんだから」
と褒めるシーンがあったのを思い出しましたが、このお歌の主体はそのことをちゃんとわかっているから、まいにち喪服を着ると宣言しているのだと思います。それも、自分のためではなく、おそらく既に亡くなっている彼のために。
 どうして彼のためにきれいでいるのに着る服が喪服なのかというと、亡くなった彼だけを想って生きてゆくという決意の表れなのかもしれないし、ひょっとしたら、生前の彼が喪服の女性を見て
「喪服の女って綺麗だなあ」
などと何気なくつぶやいた一言がずっと主体の心の奥に引っ掛かっていたのかもしれない。喪服を着ている私がいちばんきれいな私だと思い込んでまいにちそれを実行させているのは、この世にはもういない彼であり、それは呪いと言えるのではないかと思い、とても怖い、けれど、その純粋な愛情はとても美しいと感じたのでした。