本気子の部屋

短歌、回文、日常を綴ります。

うたの日・お題「電車」

「好き」という隙さえ与えないように君は電車でなぞなぞを出す

 

 私の片想いしてる人は、なるべく私とふたりきりになるのを避けて、例えば、バレンタインデーのチョコレートを渡すだけのために駅で待ち合わせをするとかも断り、バレンタインデーが終わってから顔を合わせる機会がある時にチョコレートを受け取ってくれるような人なのだが(人前で彼にだけチョコレートを渡す方が私は気になるのだけど)、たった一度だけ、あるイベントの帰りに電車の中でふたりきりになったことがある。

 今思うと可笑しいのだが、彼は、その日、職場から直行で来てくれたというのに、リュックサックの中になぞなぞの本を入れていて、電車に乗るなり、その本を取り出して私に読ませ、ずっとなぞなぞを考えさせていた。その時は、私を喜ばせるために持ってきてくれたのかと思ったんだけど、たぶん、違う。彼は、私とふたりだけで会話をするのが嫌だったのだ。私がなぞなぞの答えを考え込んでいる間は話をしなくても済むからだったのだと気づいた。

 彼との想い出はほとんど歌にしてきたから、もう詠めることがあまりないのだけど、たった一度ふたりきりになれた短い時間のことを歌にできてよかった。