本気子の部屋

短歌、回文、日常を綴ります。

第8回 ベストヒットおとの日♪・36 みよおぶさん

 かなり間が空いてしまい申し訳ありません。大変お待たせいたしました!

 

 36人目のみよおぶさんのおとの日のお歌は29首ありましたので3首ご紹介します。

 

二人から三人になる日の空は高くて深くて広がっていた/みよおぶ

 

2022年2月2日・お題「二」

 

 きっと、主体と愛する人との二人暮らしだったおうちに、新しい命が誕生した日の空の描写をしたお歌なのだろうと思います。

 

 物理的には空の高さや広さが変わることはないし、空に深さがあるという考え方も独特でおもしろいなと思うのですが、これから赤ちゃんが生まれてくるというこれ以上ないくらいの喜びで空を見上げたら、主体にとっては今まで見たことのないくらいに高くて深くて広い空に見えたのでしょう。

 

 このお歌の空の描写は事実ではないかもしれないけれど、確かな真実なのだと思います。

 

 感情を表現する直接的な言葉は使われていないのに、とても大きな幸せが伝わってきて好きです。

 

 

飽きられる前に桜は散るでしょう、だから私もそろそろ行くね/みよおぶ

 

2022年3月28日・お題「桜」

 

 思わずドキッとさせられる上の句なのですが、どこまでも優しい雰囲気なのは、このお歌が愛する人に話しかけるように詠まれているからだと思います。

 

 大学生の頃、地元に帰省していた時に、近所のおばあちゃんに

「女はね、追いかける恋をしてはいけないよ。男に追いかけられるような恋をしなさい。そうすれば、ばあちゃんみたいに幸せな結婚ができるよ。」

と言われたことがあったのですが、このお歌の主体の姿とぴったり重なるような、強くて潔い女性が幸せになれるのだなと思っていました。

 

 おそらく、この主体にはもう、そろそろ自分は恋人に飽きられるかもしれないという予感があって、けれど、自分から心が離れそうな人を無理に引き留めるようなこともしたくなくて、恋人の元を去ろうと決めたのだと思います。心変わりしそうな相手を責めることもなく、桜が散る時のように最後まで美しくありたいのではないでしょうか。

 

 恋人と別れる時には男性に花の名前を教えなさいと言ったのは川端康成だったかと思いますが、別れ際にこんなに綺麗な言葉を残されてしまったら、きっと相手は桜の散る季節が来るたびに主体のことを思い出さずにはいられないだろうなと思いました。

 

 

教室の手紙はぼくを迂回して明るい場所だけ通りすぎてく/みよおぶ

 

2022年11月10日・お題「自由詠」

 

 本当は授業中に自分にだけ手紙が回ってこない悲しみを詠んでいるはずのお歌なのに、何故かとてもまぶしく見えて、読後感の爽やかなお歌でした。

 

 それはたぶん、主体が自分には手紙を回してくれない同級生たちに対する恨み言を言うことなく、彼らの席を「明るい場所」と表現することで、明るさに対する憧れも感じられるからなのではないかと思います。主体が明るい場所を見つめている目を通して、読者にもまぶしさが伝わってくるのだろうなと思いました。

 

 なんとなく主体は、同級生と比べて明るくないわけではなく、大人の考え方のできる少年なのではないだろうか?とも想像できます。

 

 淋しさや悲しさは美しいものだと改めて感じることのできるお歌でした。