本気子の部屋

短歌、回文、日常を綴ります。

第8回 ベストヒットおとの日♪・38 牧角うらさん

 牧角うらさんのおとの日のお歌は、元の筆名の蒔どきさん名義で2首、牧角うらさん名義で24首の計26首ありましたので3首ご紹介します。

 

この部屋の靴下ぜんぶ裏返す世界の真理をずらしたい夜/牧角うら

 

2022年3月26日・お題「裏」

 

 すごく魅力的なお歌だと思います。

 

 まず、上の句で主体は部屋の靴下をぜんぶ裏返すというちょっと狂気じみているのに可愛い謎の行動をしているんですが、何故こんなことをしているんだろう?と気になって仕方ありません。

 

 そして、下の句で、それは世界の真理をずらしたい夜の出来事だと明かされています。すごく壮大な動機なのですが、世界の真理をずらしたいと思ってしまうくらいの絶対に受け入れられない大変なことが主体の身に起こったのだろうか?と想像させます。

 

 けれど、世界の真理をずらす方法なんてそう簡単に見つかるわけなく、真理に対する精一杯の抵抗が靴下をぜんぶ裏返すことだったのではないでしょうか。

 

 初句で「この部屋」と表現されていますが誰の部屋なのかはわかりません。この部屋を主体自身の部屋だと思って読んでも面白いのですが、主体以外の恋人や友人や家族の部屋だったとしたら、それぞれに物語がありそうだなと思いました。

 

 

でもこれはストッキングの伝線で流星じゃない願ったりしない/牧角うら

 

2022年5月31日・お題「願」

 

 すごく見立ての独特な面白いお歌だと思います。言われてみれば、写真に撮ると線をシュッと描いている流星は、ストッキングの伝線と似ています。

 

 主体には今、流星に願った方がいいんじゃないかと思うくらいのピンチが訪れているのではないでしょうか。だから、ストッキングも伝線してしまっているのでしょう。一瞬伝線が流星っぽく見えたくらいには主体も願い事をしたくなる状況なんだけれど、ふと我に返って「でもこれは」と冷静に否定から入る初句も効いています。

 

 今は流星が見えないのだから、なんとか自分自身の力で解決しなければという主体の強い意志も感じられます。

 

 伝線したストッキングを穿いたまましっかり自分の足で歩き出す凛とした女性の姿が目に浮かぶようです。

 

 

慣れてないくせに馬鹿とか糞野郎みたいな語彙で怒ってくれる/牧角うら

 

2023年1月16日・お題「野郎」

 

 すごく心温まるお歌です。

 

 今、主体のために怒ってくれている人の性別や関係性はわからないんですけれども、この人は、普段は決して口にすることのない「馬鹿」とか「糞野郎」という下品な表現で、主体のことを傷つけた相手に対して激怒していることが想像できます。

 

 常日頃から毒舌で他人の悪口を言っているような人だったら短歌にはならないと思うんですけど、この人が激しく怒ってくれていることがとても珍しいからこそ主体も感動したのではないでしょうか。

 

 自分のことを思って真剣に怒ってくれる人のいることが、どれだけ主体の心を励ましたことでしょう。とても素敵な関係だと思いました。