本気子の部屋

短歌、回文、日常を綴ります。

うたの日・お題「届」

晴れ渡る空の青さが目にしみて涙で滲む退学届

 2年に渡って母を説得してやっと退学届を大学に出すことになった日は、雲ひとつない青空だった。
 やっと、辞めたくてたまらなかった大学を辞めることができるのだから喜んでもいいはずなのに、何故か、涙が零れた。
 未だに、たまに、苦しかった大学時代のことを夢に見てうなされていることがある。
 せっかく推薦入試で受かった大学だったけど、どうしても、そこは私の居場所ではない気がして息苦しかった。
 母は
「何年留年してもいいから卒業してほしい」
と言って泣いた。
 母を泣かせてまで中退の選択をしたことは、本当に私にとっていいことだったのかはわからない。何故なら、大卒でなければ就けない仕事というのはけっこうあるからだ。
 それでも、中退していなかったら、たぶん、私は、恋人だった人をはじめとして、私と関わってくれた大切な人たちとは出会えていないと思うし、回文や短歌と出合うこともなかったのではないかという気がする。
 回文をやる人たちにはやたらと頭のいい人が多くて、東大や京大を出た人や、お医者さんも何人かいたりして、そんな中で大学中退の私は形見が狭いと思うこともあったりはしたけど、今は回文は作っていないから、まあ、いい。
 短歌も大学を出てる人がほとんどだけど、私が脚本家になりたいから中退するという話をした時に、ゼミの助教授が
「貴女の進もうとしている世界は、順風満帆な人生を歩んだ人よりも、ドロップアウトした人の方がいいものを書けるのではないかと思うので、僕は賛成します」
と言ってくださった。脚本と短歌は違うかもしれないけど、でも、ドロップアウトした経験というのは、短歌を詠むうえで活かせるんじゃないだろうかと思っている。
 それでも、この時期になると、苦しかったことを思い出してしまうのだ。