本気子の部屋

短歌、回文、日常を綴ります。

今日の自由詠

ひび割れたカップが処分できなくて君の誕生花を活けている


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 大学進学のため上京する前、私は、推薦で合格していて時間があったから、地元のステーキハウスのホールと厨房でアルバイトをしていた。店長もスタッフもみんなとても優しいし、まかないは美味しいし、いいバイト先だった。

 そこで、トイレの掃除をしている時に、突然、私の位置からは離れたところに飾られていた見るからに高級そうな花瓶が倒れて、割れた。私は、青ざめながらも、すぐに店長に報告した。店長は
「直ちゃん、よく、正直に言ってくれたね。形あるものはいつかは必ず壊れる。だから、気にしなくて大丈夫だよ」
と、私を叱らなかった。
 そのお店で稼いだバイト代で、上京後に必要なものを少しずつ買った。このカップもそのひとつで、ねこまや食器店という、猫の柄の器や置物やアクセサリーばかり売っている猫好きにはたまらない食器屋さんで買い集めたものだった。
 大切に使っていたつもりだったのだが、ある日、ひびが入ってしまって、これで飲み物を飲むのは危ないけれど、捨てるのは可哀想だなあ……と思い、小さな花瓶がわりに使うことにしたのだ。

 

 私の好きな人の誕生花はりんどうである。

 りんどうっていう名前は、なんとなく、凛として堂々としているようなイメージの音で、私の好きな人の姿とも重なるし、花言葉が「悲しんでいるあなたを愛する」で、まるで、(私に想われて)悲しんでいるあなたを愛するという、私と彼との関係性を表しているかのようで、りんどうが彼の誕生花なのは、なんだか意味があることのように思える。

 

 お誕生日おめでとうございます。生まれてきてくれて、出逢ってくれて、こんなにせつない恋をさせてくれてありがとうございます。

 

 18歳の時に買ってひび割れたカップさえ捨てることができない私に、こんなに好きな人のことを忘れてしまうなんてできないと思う。生きている限り。