本気子の部屋

短歌、回文、日常を綴ります。

第5回 ベストヒットおとの日♪・24 巣守たまごさん

 巣守たまごさんのおとの日のお歌は数えた時点で20首ありましたので、3首ご紹介します。

 

礼儀には厳しく行くと言う父がめっちゃ畳の縁を踏んでる/巣守たまご

 

 2021年10月14日・お題「礼」 

 

 一目見ただけで3人の人物が浮かぶのがすごいなあと思いました。「礼儀には厳しく行く」とお父様が言われているので、主体は娘さんであり、礼儀を厳しくチェックされるのは主体の恋人で、プロポーズされた後で主体の家に挨拶に来るという場面なのだと思います。

 

 何故、ただの恋人としての紹介なのではなくて婚約者だと思ったかといえば、下の句のお父様の緊張がピークであることが「畳の縁をめっちゃ踏んでる」という動作だけでしっかり伝わってくるからです。とても心温まるくすっと笑えるお歌です。

 

 

君からの手紙の書き損じたとこに変わらずにいた毛虫が愛しい/巣守たまご

 

 2022年2月1日・お題「損」

 

 まず、インターネットの普及した今も、手紙のやり取りのできる人がいるということがとても素敵だと思います。

 

 「変わらずにいた」という表現で想像できたのは2つの場面なのですが、1つは、昔、君と主体は手紙のやり取りをしていた時期があったけどしばらく手紙では連絡しなくなって、久々に来た手紙を読んでいるという場面。もう1つは、主体が部屋の片付けをしていたらとても久々に君から昔もらった手紙を見つけて読み返して懐かしんでいる場面です。どちらの場面だとしても、手紙の書き損じたところをペンでぐしゃぐしゃっと消して目玉を足した毛虫が今も変わらずにいることで、主体は君との過去を思い出しています。

 

 結句に「愛しい」とあるので、きっと、主体は君と手紙のやり取りをしなくなったのも、君のことを嫌いになったからというわけではなく、心の奥でずっと大切に想っていたのではないかという気がします。毛虫は、主体のそんな本当の気持ちを引き出す役割を果たしていると思います。毛虫への愛しさは、君への愛しさだとも言えるのではないでしょうか。

 

 

誰よりも一番最初に言いたくて零時ちょうどに〈送信〉を押す/巣守たまご

 

 2022年9月26日・お題「夜」

 

 お題そのものは詠み込まれていないのですが、お歌全体で午前零時だとわかるのがいいなあと思います。

 

 「誰よりも一番最初に言いたくて」で主体は何を言いたいのだろうと思わせておいて、「零時ちょうど」であること、「〈送信〉を押す」ことから、下書きしていたメールなどを相手の誕生日になった瞬間に送る場面なのだとわかるのも、誕生日のサプライズ感と重なって素敵なお歌です。

 

 相手が恋人であっても、親友であっても、離れて暮らす家族であっても、温かい気持ちになれるお歌だと思いました。