本気子の部屋

短歌、回文、日常を綴ります。

第5回 ベストヒットおとの日♪・22 川下知世さん

 川下知世さんのおとの日のお歌は数えた時点で41首ありましたので、3首ご紹介します。

 

ペンギンの翼は泳ぐためにあり僕らはきっとどこでも行ける/川下知世

 

 2022年2月7日・お題「昨日の題からどれでも」

 

 

 うたの日では、7日がラッキー題の日として1部屋だけ「昨日の題からどれでも」というお題が出ることがあるのですが、この時、川下知世さんが選んだ昨日のお題は「翼」でした。

 

 ものすごくポジティブで希望に満ち溢れたお歌だと思います。

 

 私たち人間は翼がないから飛べないので、よく空を飛べる鳥に憧れて、飛行機まで作っちゃったくらい空への憧れの強い生き物なので、空を飛べないペンギンを勝手に可哀想だと決めつけてしまいがちなんですけど、このお歌ではそれに異を唱えています。ペンギンは泳ぎが得意であることに光を当てているのです。

 

 私たち人間も、できないことにくよくよ悩むのではなく、できることに目を向けてゆくこと、自分の可能性も他人の可能性も否定することなく尊重して信じることで、きっと何でもできるし、行きたいところへ行けるのだと主体は確信しているのだと思いました。このお歌全体が人生の応援歌のようです。

 

 

「むかしむかし、あるところに」と降る声を母の聖なる歌として聞く/川下知世

 

 2022年2月14日・お題「聖」

 

 

 母が子に絵本の読み聞かせをしている場面の短歌というのは、主体が母のものも主体が子どものものもけっこうあるんですけども、このお歌はなんといっても下の句がものすごく素敵だなと思いました。

 

 きっと、「聖なる歌」と表現されているくらいだから、お母様の声はとても優しく、美しい声なのでしょう。まるで、讃美歌を聞いているかのような気持ちになる声で、主体はお母様に読み聞かせしてもらうたびに、心が落ち着いてよく眠れていたのだろうなと想像が広がりました。

 

 

切り分けてくれたケーキの大きさが異なることを愛と呼びます/川下知世

 

 2022年7月11日・お題「分」 

 

 主体はとても愛されている人なのだろうなということが伝わってくるお歌です。それは、切り分けてくれた大きさの異なるケーキの大きいところをもらえる人の立場で詠まれているお歌だからです。

 

 このケーキを切り分けてくれたのが家族なのだとしたら、例えば主体のお母様が自分のケーキは小さめに切って、お父様や主体のケーキを大きくしてくれたのかもしれないし、恋人だとしても主体に大きい方をくれたのでしょう。

 

 これがもし、兄弟の多い家庭だったりすると、兄弟げんかにならないようにきっちり同じ大きさに切り分けるのもまた愛だと言えるかもしれません。

 

 このお歌の主体はとても恵まれていると言えるでしょう。