本気子の部屋

短歌、回文、日常を綴ります。

第7回 ベストヒットおとの日♪・34 音羽凜さん

 音羽凜さんのおとの日のお歌は、旧筆名の音羽凛さん名義のものと合わせて82首ありました。3首引かせていただきます。

 

 


伝わった手応えはなく履歴書の文字は小鳥となって飛び立つ/音羽

 2021年11月25日・お題「伝」

 

 下手すると、面接が上手くゆかなくて落ち込んだというだけの日記調の短歌になってしまいそうな光景をとても詩情豊かに詠まれていると思います。

 

 面接に不合格だった場合に履歴書はどうなるかというと、おそらく企業のシュレッダーで細かく切り刻まれて燃えるごみとして焼却され、灰になるでしょう。白い灰が空気中を舞う様子は、主体の心の中では白い小鳥が飛んでるように思えたのではないでしょうか。

 

 ただ気持ちが沈んでしまうだけの描写にせず、履歴書の文字は小鳥になった、と空想の翼を広げたことで、未来への希望も感じられるお歌になっていて、読後感が清々しいです。

 


永遠はないものだって聞かされてアイスケーキがうまく切れない/音羽

 2022年7月18日・お題「サーティーワンアイスクリーム」

 

 このお題でアイスケーキを選ばれたからこそ、ドラマチックなせつない恋のお歌になったのだろうと思いました。アイスケーキを食べる時というのは特別な時で、それが恋人同士だとお互いの誕生日やクリスマスやお付き合いをスタートした記念日などが思い浮かびます。

 

 お付き合いのある程度長いカップルだったら、そろそろ結婚しようかという話題にもなるかもしれないですが、おそらく主体もそれを願っていたのに、恋人に永遠はないものだと聞かされたのでしょう。

 

 だから、平常心であればうまく切れるはずのアイスケーキを切る手が震えてしまったり、力が入らなかったりしてうまく切れないのです。主体の動揺がとてもよく伝わってきて、胸が痛みます。

 


二名でと声震わせる予約ありきっとひとりで来るのだろうな/音羽

 2023年2月2日・お題「二」

 

 たぶん、この主体は飲食店、それもちょっと高級な、予約の必要なレストラン勤務なのではないかと思いました。

 

 予約の電話に応対した時に、二名でというお客の声が震えていることに気付いた主体は、きっとひとりで来るのだろうと思っています。

 

 それは、ひょっとしたら今までに他にもそういうお客の応対をした経験があるのかもしれないし、または主体自身もお客になった時にその電話の主のように声を震わせて予約したけれど相手は現れなかった経験があるのかもしれません。

 

 いずれにせよ、敏感にお客の心の痛みを感じ取ることのできる主体のことだから、予約当日にそのお客がひとりで来店しても、真心のこもったおもてなしをするのだろうなと想像が広がるくらい、主体のプロフェッショナルぶりも伝わってくるお歌でした。