本気子の部屋

短歌、回文、日常を綴ります。

第2回 ベストヒットおとの日♪・7 ガイトさん

 ガイトさんのお歌には12首のおとの日のお歌がありましたので、3首ご紹介します。



令和って何度言っても新鮮であなたとキスをする時みたい/ガイトさん

 2019年4月1日・お題「令和」

 
 このお題でこんなに愛くるしいお歌が生まれたことがすごいと思います。

 たぶん、私のように昭和以前に生まれて、今までに元号が新しくなる年を迎えたことのある人たちの多くは、平成から令和になってもこの主体ほどの感激はなく、けっこう淡々としたものだったのではないでしょうか。

 おそらく主体は平成生まれで、元号が変わるのはこれが初めての経験なのでしょう。思わず、何度も令和と言いたくなるくらいに。それを主体は、あなたとキスをする時みたいだと思っているのです。

 ひょっとしたら、あなたは主体の初めての恋人なのかもしれません。あなたと何度もキスをしても新鮮な気持ちでいられるような、すごく幸せな恋愛なのだろうなと、胸がキュンとしました。



子どもの頃夜は誰でも作れると信じてました電球を消す/ガイトさん

 2020年5月10日・お題「自由詠」


 子どもの発想というのは自由で、常識に縛られている大人には考えられないような面白いことを考えていることがありますが、このお歌もそんな子どものユニークな発想に楽しませてもらえました。

 このお歌の主体が子どもの頃、夜は誰でも作れると信じていたというのです!どうしてこの子が夜は誰かが作っているものだと思うようになったのかがすごく興味深いです。

 結句で主体は電球を消すのですが、ひょっとしたら幼かった主体は、親御さんが
「もう寝なさい。おやすみ」
と電球を消してくれて部屋が真っ暗になった状況を夜なのだと認識していたのかもしれないし、町の灯りがひとつひとつ消えて暗くなってゆくのを見て、よその家やお店でも誰かが夜を作っているように見えていたのかもしれない。

 このお歌を読んで思い出したのが、サン=テグジュペリの『星の王子さま』に出てくる、王子さまが旅してきた五番目の星です。この星はどの星よりも小さな星で、ガス灯が1本と、そこに火をともす点灯人がひとりいるだけでいっぱいの星でした。この点灯人がガス灯をともすと、まるで星がもうひとつ生まれたみたいで、花がひらくみたいだと王子さまは思います。消すと、花は眠り、星が眠るので、王子さまはこの点灯人の仕事をとっても素敵な仕事だと思うのです。

 そんな童話のような雰囲気のあるこのお歌を読むと、大人になった私も子どもの頃は夢と現実の境界線もぼんやりしたもので、どんな不可能も可能にできるような謎の万能感を持っていたことを思い出しました。




裁判になれば結局甲と乙このおぞましき愛憎劇も/ガイトさん

 2020年7月10日・お題「自由詠」


 すごく冷静に客観的に結論から述べている上の句と、感情的で主観的な下の句とのバランスが面白いです。

 ひょっとしたら、主体は法律の勉強をしている学生さんなのかもしれないと思いました。大学の講義でいろいろな裁判の判例などを読んで勉強するうちに、ニュースやワイドショー、またはサスペンスなどで恋愛感情のもつれで引き起こされた殺人事件を目にした時、この事件が裁判になったらどうなるだろうかと、法律の知識を基準にして考えるようになったりするのかもしれません。

 法律の知識のあまりない私は、殺人事件のニュースなどを見ると、つい、主観的に可哀想だと思った方の人物にとっていい判決が出るようにと願いがちで、たまに、求刑よりも短い懲役年数の判決だったりすると、腹立たしくなることなどもあるんですけど、この主体はきっと淡々と判決を受け止めることができるだけの勉強をしているのだろうなと感じました。

 裁判員制度でいつ誰が裁判員に選ばれてもおかしくない今、すごく考えさせられるお歌でした。