本気子の部屋

短歌、回文、日常を綴ります。

うたの日の100人の短歌・第10グループ②長谷川伝さん

 長谷川伝さんはそんなにうたの日への出詠数は多くないんですが、キラッと光るお歌が何首もあって、その中で特に感動したお歌を引きます。



色褪せることは世界に馴染むことみんな最後は西陽に染まる/長谷川伝 2019年3月10日「陽」


 このお歌を読んだ時、思わず私の頭の中で大好きな藤井風くんの『帰ろう』という名曲のイントロが流れ出して涙が込み上げてきたんですが、このお歌も『帰ろう』のように哲学的な、ひとつの死生観を詠んだものではないかと感じました。
 日本人って、若さに執着して年齢を重ねることを怖れて、実年齢より若く見えることにこだわっている人がかなり多いと思います。それは、老化=死に近付くというイメージが強いからなのかもしれません。
 でも、このお歌の主体は、年老いて色褪せてゆくことをネガティブに捉えず、世界に馴染むことだと断言しています。色褪せたからこそ、最後には、西に沈んでゆく太陽の色に染まることができるのだと、死ぬことも怖れていない様子です。
 以前、俳人の夏井いつき先生が、駄目な俳句の例として「下手な人ほど、染まるを使いたがる」
と指摘されていたこともあり、短歌でも使いづらい雰囲気になったなと感じていたのですが、このお歌は、染まる以外の動詞は考えられないと思うくらいぴたっとはまっているなと感じます。また、なじむを漢字で書くと馴染むで、染まるという字が入っていることに改めて気付くのです。
 運命に身を任せて最後は西陽に染まるなんて、誰もが自分の人生は美しい人生だったと言い切れそうです。