本気子の部屋

短歌、回文、日常を綴ります。

うたの日・お題「後朝」

後朝にやかんしかないキッチンで貴方が淹れてくれた珈琲

 

 学生の頃、古文の授業は仕方なく受けていたので、昨日、このお題を見て???となり、読み方と意味を調べるところから始めたわりには、首席と1点差の3席で健闘したと思う。

 題詠は、たまに、こういうふうに題詠でなければ一生使うことはなかったであろう言葉に出合うのも面白い。使ったことのない言葉を使っていかに私らしい歌にするかという挑戦だと思ってこのお題を選んだ。

 24歳から5年間お付き合いしていた恋人は刑事だったから、警察の独身寮で暮らしていた。ふたり部屋の寮だったんだけど、ルームメイトが不在の時、ちょうどクリスマスの頃に、彼が私を部屋に招いてくれた。

 管轄内だからという理由で外で手を繋いでくれなかったことがちょっと淋しかったけど、彼の部屋に泊まれることがとても嬉しかった。

 彼の部屋は驚くほど綺麗に片付いていて、殺風景なくらいだった。県内を転々としなければならないから荷物を少なくしてるということで、本がいっぱい並んだ本棚とパソコンと机くらいしか物がなかった。

 彼がいつも使っているお風呂に入り、彼のシャンプーやボディーソープを使って、彼のジャージを借りて、彼のお布団で愛し合って朝まで抱き合って眠って、私、すごく幸せだなあと思った。

 本当は、恋人らしく、彼に何かごはんでも作ってあげたかったんだけど、彼は、一切、料理をしない人で、いつも食事は外食かコンビニのお弁当ばかりだということで、彼のキッチンにある調理器具はやかんだけ。包丁もまな板も、炊飯器すらなかった。冷蔵庫には飲み物が入ってるだけだった。

 彼は、ホテルで過ごした翌朝も、よく私に珈琲を淹れてくれたんだけど、彼の部屋で彼が淹れてくれた珈琲は、特別な味がした。

 でも、何故か、その時、私は、この部屋に来るのは最初で最後になるだろうという予感があった。すごく幸せなはずなのに、この幸せが永遠に続くことはないのだろうなと思った。

 彼のような素敵な人には、私なんかよりもっと相応しい素晴らしい女性がいるはずだから、彼の気持ちが私から離れる時が来ても心から彼の幸せを祈れる強い自分にならなければいけないとぼんやり考えていた。