本気子の部屋

短歌、回文、日常を綴ります。

うたの日・お題「熱」

黒人を茶の間で侮辱した父を思わずぶった右手が熱い

 後にも先にも、あの時だけなんだけれど、父の頬をビンタしたことがある。
 あれは、家に、私と父だけがいて、父が晩酌をしながらテレビのバラエティー番組を観ていて、私は他のことをしていた時だった。
 その番組で、娘が婚約者として黒人の男性を家に連れてきたら、父親はどんな反応をするか?という、とても悪趣味な企画を放送していた。その時点で、私はもう、こんなくだらないテレビは消したいと思っていたのだけど、父が
「直美がうちに黒人を連れてきてもお父さんは反対する」
と言ったのが聞こえた時には、もう、勝手に、右手が動いていた。思いっきり、父の頬をぶって、
「こんな人種差別をするような人が自分の父親だと思うと、情けない!」
と言って、涙で顔をグシャグシャにしながら父に抗議した。
 一瞬、父は、ポカンとした顔をしたが、すぐに激怒し、私は、何往復もビンタされた。
 父は、子供の頃に両親が他界したため、中卒で、並々ならぬ苦労を重ねてきた人だ。中卒であることを理由に差別されてきたこともたくさんあると私は聞かされていた。
 それなのに、差別される辛さを知っている父が、肌の色が黒いというだけで外国人を差別しているのも腹が立ったし、そんなことで、私の結婚に干渉してくるつもりなのか?と思うと、ゾッとした。
 こんな父なので、私は、できるだけ離れて暮らしたいのだ。でも、父は、私のことを溺愛していて、老後は私に面倒を見てもらうのだと母に言っているらしいけれど……