うたの日・お題「味」
おふくろの味を知らない父のため母が欠かさず作る味噌汁
私の父は、3歳で母を亡くしたので、母の記憶がぜんぜんない。
親戚中をたらい回しにされて、15歳上の異母姉が嫁いでからはその嫁ぎ先で育ててもらっていたけれど、異母姉夫婦にも幼い子供がいるうえ、貧しかったから、いつもお腹を空かせていたらしい。
中学を卒業してすぐに汽車に乗って宮崎から愛知に向かった父は、寮のあるクリーニング工場に就職した。その寮は食事つきで、初めて、父は、お腹一杯になることができたそうだ。
愛知県なので、味噌汁の味噌は八丁味噌ばかりだったそうだが、父はこの八丁味噌で味つけした料理が大好物になった。
母と結婚して以来、母は、九州の合わせ味噌の味噌汁も作るのだが、父を喜ばせるために、頻繁に八丁味噌の味噌汁を作る。八丁味噌で味噌田楽や、味噌おでんも作ったりする。
父が胃癌で胃を全摘出してからは、父の健康のために、この味噌汁に、こっそりと父の嫌いなヨーグルトを混ぜたり、シナモンを入れたりして、より、健康を考えた味噌汁が出されるようになった。
母のような妻がいて、父は、幸せ者である。