本気子の部屋

短歌、回文、日常を綴ります。

短歌研究新人賞応募作「東京プアストーリー」

 3か月ぶりのブログ更新です。心身共に絶不調の時も多かったんですけど、なんとか生きています。

 初めて応募した短歌研究新人賞の結果が出ました。参加賞の2首掲載でした。連作は難しいですね。これを推敲し直して別のところへ……とも思ったものの、やはり、賞は新作で勝負したいと思うので、このまま公開します。

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   東京プアストーリー

                 澪那本気子 

実家より安い家賃のアパートに住むのがひとり暮らしのルール

礼金も更新料もない部屋に十七年も暮らし続ける

不動産屋から言われた「若者の夢が実現できる」アパート

ポストには大家さんから缶入りのクッキー、りんご、みかんも届く

風呂つきで三万円の部屋のなか小田和正の声だけ高い

ユニクロでセール品ではないシャツを試着だけして満足してる

古着屋をマメに覗いて二千円以内で買える喪服を探す

大根の葉っぱも皮も捨てないで丸ごと使いきるのが特技

人参のヘタや万能ネギの根の水栽培をしている窓辺

クーポンで何かもらえるときにだけ仕事帰りにコンビニへ寄る

二分間自動販売機の前で止まってうちで麦茶を作る

半額の刺身とジュースより安い缶チューハイで晩酌をする

合コンによく誘われる愛らしい顔に生まれず幸いだった

外食をするとうちでも再現ができるかどうか考えてみる

ガス代の伝票を見て毎日の風呂は贅沢すぎると気づく

火曜日はカラオケの日と決めているフリータイムが二十四円で

地元では無視することもあったけど必ずもらうポケットティッシュ

十枚で七百五十円もするゴミ袋ではゴミが出せない

地デジ化で何も映らぬテレビデオさえ置物と化している部屋

トレンディーとはほど遠いこの部屋に招いた人はひとりもいない

パソコンの修理をせずに買い替える君に私じゃ相応しくない

女から「セックスしよ!」と誘うのは部屋にも自信がないとできない

二十年不眠不休の冷蔵庫よりも私が先に壊れて

実らない恋も長年ため込んだ雑誌も着ない服も捨てなきゃ

つまらないプライドだけは捨てたから会社でうんこするのも平気

のしかかる奨学金の返済が終わる日までは引っ越ししない

この町の市立図書館分室で片っ端から読む俵万智

地に足の着いた夢だけ追いかけるBOOK・OFFでも歌集は買える

練炭で自殺しかけたことさえも笑い話にできますように

月九には生活感がありすぎる私もいつか夢を叶える