うたの日の100人の短歌・第4グループ⑩山口綴りさん
うたの日をやっていると、この人はすごい!と思う新人さんが現れることがあると、第3グループ⑥の中嶋港人さんの記事にも書いたけれど、今回の山口綴りさんもそんなひとりです。うたの日の出詠数は私の半分以下なのに私よりも薔薇を獲得されているし、秀歌も3回。特に、1800回の記念回の時の「1800カラットのダイヤと同じ美しさ」という超難しい無茶題で首席になった
人類がはじめて死者のとむらいに手向けた花へ降りた朝露
という美しいお歌は、好きすぎて、いつも以上の熱量でハートを贈り感想を書いたのを覚えています。
そんな山口綴りさんともTwitterではほとんどお話ししていないので、どんな人なのかということが実はよくわかっていなくて、純粋に短歌だけを見て大好きだといえる方です。なので、特別に、2首引かせてください。
なんぴとにも解けぬ着付けをほどこして娘を花火へと送り出す/山口綴り 2019年7月28日お題「浴衣」
上の句で字余りが2ヶ所出てくるんですけど、この字余りが、娘の花火デート相手が狼になってしまったとしても絶対に解けない母の娘を想う気持ちが詰まったきつい着付けの仕方そのものを表しているようで、すごいなと思いました。
もちろん、娘のことは信頼しているのだとは思うけれども、同性である主体は、妙齢の女の子の浴衣姿がどれだけ人を惹き付けるか知っています。娘の幸せを誰よりも願っているからこそ、家族と同居しているうちは娘のことは自分が守るという母の強い決意が感じられます。
また、「なんぴとにも」「ほどこして」というひらがなの使い方も美しいです。内容はとてもピシッとした強い母のお歌なのに、優しい印象なのはこのひらがなの効果もあるように思います。
それにしても、浴衣の着付けをする母と娘、ずっと残ってほしい日本人ならではの情景ですよね。
トミカだけリュックにつめたおとうとの家出をスタッフとして見守る/山口綴り 2019年9月24日お題「弟」
可愛すぎるお歌です。
主体のおとうとは、たぶん、家で親に叱られたり、兄か姉である主体と喧嘩をしたりして、家出しようとしたんでしょうね。でも、まだ幼いから、いちばん大切にしているトミカ(車のおもちゃ)だけをリュックサックに入れて外に出たのでしょう。おとうとが心配だけど、おとうとの気の済むようにやらせてあげようと、テレビ番組の『はじめてのおつかい』のスタッフのように、おとうとには気付かれないよう見守っている主体。なんて微笑ましい光景なのだろうかと思いました。
最近は同じお部屋になることがあまりないですが、今後もずっと注目してゆきたい方です。