本気子の部屋

短歌、回文、日常を綴ります。

うたの日の100人の短歌・第5グループ⑤ともえ夕夏さん

 ともえ夕夏さんといえば、フランスパンをかじっているお写真をアイコンにしているくらいのパン好きで、名古屋で春のパン歌会という、みんなで持ち寄ったパンでお腹いっぱいになるという楽しい歌会を開催されていらっしゃる方です。発案者は中牧正太さんだったかな。お子さんふたりを育てながら働くお母さんでもあり、とにかくお忙しそうなのに、うたの日だけでなく、NHK短歌の投稿や、その他の短歌の活動にも精力的。とにかくパワフルです。
 夕夏さんは、うたの日ではひの夕雅さん名義のお歌もあり、今日現在の合計で1300首詠んでらっしゃるのですが、とにかく作風が幅広いのです。官能的な恋のお歌、野球のお歌、学生目線のお歌、男性主体のお歌、家族詠、育児詠などなど、バラエティーに富んだお歌を詠まれています。夕夏さんのお心遣いで、今回は、ともえ夕夏さん名義のお歌の中からだけ2首選ばせていただきました。


将来はひとがうれしくなるものを集めて並べ『うれし屋』になる/ともえ夕夏 2019年2月5日お題「屋」

 
 このお歌はおそらく、主体は子供なのかなと思います。
 というのが、私の弟が幼い頃に将来の夢を「ケーキのなかみ」と言っていたことがあったからなんですが、子供の発想はどこまでも自由で、夢が夢らしいんですよね。そのためにどんな努力をしなければいけないとか、いくらかかるかとか、自分の実力で叶えられるかどうかとか考えず、大人のような計算は一切ないのが子供です。
 ひとがうれしくなるものを並べた『うれし屋』。なんて素敵な発想なのでしょうか!主体は、ひとがうれしい顔をしているのを見ることが何よりもうれしいのでしょう。
 どんな仕事においても、自分が関わる人を喜ばせたいと思う気持ちはとても大切なものだと思うのですが、大人はそれを忘れがちです。働くうえで大切なことを、この純粋な心の主体に改めて教えられたような気持ちになりましたが、作者は大人の夕夏さんであるというのがすごいなあと思うのです。


だいたいのことがわかればいいんだと祖父も懐中時計も狂う/ともえ夕夏 2019年4月10日お題「自由詠」


 年老いてくると、哀しいことですが、認知症を患ってしまう人もいます。この主体のおじい様もおそらくそうなのかもしれません。
 でも、このお歌は、完全にひらかれた上の句の効果だと思うのですが、病の進行も、たぶん、祖父の愛用品である懐中時計の故障も、とてもおおらかに受け止めている感じが伝わってきて、悲壮感がないのです。
 童謡の『大きな古時計』では、古時計はおじいさんの生まれた朝からおじいさんと一緒に100年休まずに動いてきて、おじいさんが亡くなるのを見届けて動かなくなったという内容でしたが、夕夏さんのこのお歌では、おじい様と一緒に懐中時計もだいたいのことがわかる程度に狂うというのが、おじい様と一心同体であることが伝わってきて、目頭が熱くなったのでした。