本気子の部屋

短歌、回文、日常を綴ります。

うたの日の100人の短歌・第8グループ③といじまさん

 といじまさんとは、Twitterではそれほど絡んでいないのだけど、一度お会いしたことがあります。あれは、笠原楓奏(ふーか)さんの北欧音楽のバンドのデビューライブでした。一緒のテーブルに座ってライブを楽しんだ後、カラオケにもご一緒して、透明感のある美しい声に惚れ惚れしたのでした。またどこかでご一緒できると嬉しいなと思っています。
 といじまさんはうたの日には2014年からいらっしゃる大先輩で、毎日出詠されているわけではないのですが、たくさんのお歌がありました。同じお部屋に出詠することがあまりないので、ほとんどのお歌が初見だったのですが、好きなお歌がいろいろありました。ここでは2首引かせていただきます。  


これからも視聴者でしかない僕に君は昨日のドラマを語る/といじま 2016年3月26日・お題「昨日」

 とてもせつないお歌です。といじまさんとはお会いしているので女性だと知っているのですが、たぶん、男性主体のお歌です。たぶんと書いたのは、たまに、女性でも一人称が僕の人はいるからです。
 これからも君にとって視聴者でしかないということは、これまでの主体も視聴者でしかなかったということで、このふたりは、主体から見ると、一緒に遊んだする友達の関係ですらなく、たまたま、同じドラマを観ているから、そのドラマのあった翌日にだけドラマの感想を語り合う関係なのかもしれません。でも、関係性、今だけではなく未来の関係性も気になるということは、少なくとも、主体にとって君は、同じドラマの視聴者であるだけではなく、もっと親しくなりたい存在なのです。でも、主体には、自分の願望を君に伝える勇気はないのでしょう。だから、これからも、ドラマの視聴者でしかないと断言しているのです。 
 主体に一歩踏み出す勇気があれば、もしかしたら、ふたりの関係は良い方向に変わるのかもしれない。でも、もし、君がそれを拒んで、ドラマの話すらできない関係になってしまったとしたら……?そうなってしまうくらいなら今の関係がいいという、主体のあきらめと変化を怖がる気持ちの両方がよく伝わってくるお歌だなと思いました。


授業ってさぼれるのだと知りました優しい影を落とす葉桜/といじま 2017年5月16日・お題「葉桜」

 木陰には私もとても優しさを感じるのですが、葉桜というお題でこのお歌を詠まれたところが素晴らしいなと思いました。
 というのも、大学1年生の時の日本語学の先生がおっしゃってたのが
「毎年1年生は元気に入学してくるけど、だんだんホームシックになって元気がなくなってきて、ゴールデンウィークに帰省をすると元気になってまた帰ってくる」 
ということで、いわゆる、五月病のことなんですけど、このお歌も、まさに、そんな情景を詠まれたのかなと思ったからです。
 授業もサボったことのない真面目な学生の主体だけれど、入学したばかりの時のようなやる気はなくて、疲れを感じていたのでしょう。そして、初めて、授業をサボった。私なら、その罪悪感なんかを詠んでしまいがちだと思うんですけど、このお歌は主体の感情は表現されていないことがいいなと思います。ただ、授業をサボったこと、葉桜の影が優しいことだけが書かれているのだけど、それだけで十分主体の心が楽になったことが伝わってくるのです。