本気子の部屋

短歌、回文、日常を綴ります。

うたの日の100人の短歌・第6グループ⑤織部 壮さん

 織部 壮さんは、穂村弘さんの『短歌ください』から短歌の投稿を始められたとのことですが、各新聞歌壇や、NHK短歌や、とにかくいろいろな場でご活躍を拝見しています。Twitterで、新聞歌壇の自分のお歌以外のお歌まで最新情報をツイートしてくださったりもしていて、織部さんのツイートで掲載を知ることができている方も多いのではないでしょうか。穂村弘さんのいらっしゃる歌人集団『かばん』にも入られています。
 織部さんも作風が幅広い方で、いろいろなお歌を詠まれるんですけど、風景の詠み方が素敵だったり、奥様への愛の伝わる可愛い恋のお歌だったり、ご両親やお子さんを詠まれた家族詠なんて、とても好きです。


頑張れに代わる言葉を見つけた日ゲリラ豪雨にまぎれて泣いた/織部 壮 2018年11月13日お題「頑張れ」


 このお歌を読んで、思わず私ももらい泣きしてしまいました。
 頑張れっていうのは励ましの言葉ではあるんだけど、この頑張れが禁句の病気っていうのもあったりします。頑張れと言われることで、もう、それ以上頑張れないと思った人は、追い詰められて死んでしまう危険性もあるからです。
 頑張れに代わる言葉を見つけたということは、このお歌の主体の大切な人が、なんとか励ましたいけど頑張れと言ってはいけないような状態であるのか、もしくは、主体自身がそのような状態にあるから、頑張れに代わってどんな言葉をかけてほしいかわかったのかのどちらかなのではないかと思います。
 主体は、そんな言葉を見つけてゲリラ豪雨にまぎれて泣いたというんですけど、主体の大切な人にかけてあげたい言葉の場合、主体は、今まで、その人に対して適切な言葉で励ましを送ることができなかった自分が悔しくて情けなくて泣けてきたのかなと思うんです。もっと早く見つけてあげられたらよかったのに、と。主体自身が頑張れ以外の言葉をかけてほしい状態だとすると、ああ、こうやって励ましてほしかったんだよ、自分は……と、ホッとして気が緩んで泣いたのではないでしょうか。
 雨が、ただの雨ではなくゲリラ豪雨だというのも、主体はただ泣いたのではなく、声をあげて号泣したんだろうなと思わせます。
 主体がどんな言葉を見つけたのかは読者にはわからないんだけど、このお歌の読者は、自分も頑張れに代わる言葉を見つけなければと思う人も多いと思います。 


ビニジャンの父を革ジャンよく似合う男に変えた母のへそくり/織部 壮 2019年10月11日「服」


 へそくりというと、主婦が節約したり、夫に内緒で内職などをしたりして貯めたりしたお金のことですが、夫がすごく稼ぎが多ければ、へそくりをする必要もないわけです。 
 主体のお父様は、ビニジャンを着ているくらいなので決して裕福な家庭ではなかったのだと思いますが、このお父様が革ジャンのよく似合う男に変わったというのです。革ジャンといえば、高級品です。それを買ったのはお父様ご本人ではなく、お母様のへそくりで買ったものだと結句で明かされています。
 へそくりで、自分の欲しいものを買ったり、美味しいものを食べたりではなく、自分の夫を格好良く、立派に見せるための革ジャンを買うなんて、愛以外の何物でもないと思いました。
 オー・ヘンリーの『賢者の贈り物』にも通じるような夫婦愛の伝わるお歌ですし、主体が素敵なご両親を誇りに思っていることもよくわかります。泣かされました。