本気子の部屋

短歌、回文、日常を綴ります。

うたの日の100人の短歌・第9グループ⑩小路喜一さん

 小路喜一さんのお歌は大好きなものがたくさんあったので特に好きなお歌を2首引きます。


「お前はさ、ミスが多い」と川流れしてる河童に言われてしまう/小路喜一 2018年6月3日・お題「流」


 「河童の川流れ」という諺をモチーフに、主体自身のことを自虐的に詠んだユーモラスなお歌です。
 これは主体の夢の中の出来事なのか、ミスをしてる最中に見えた幻なのかはわからないけれど、主体も嫌というほど自分のミスの多さを自覚していて、それをミスをしない人や上司などから注意されるのではなく、河童なのに川流れしている泳げていない河童から言われたというのが堪えるんだけど、面白いです。
 そして、きっと主体はミスを減らしたいと思って頑張ってはいるんだけど、それが結果に結び付かないからこそ、河童の声が聞こえたのかなとも思いました。
 ちょっと開き直っているようにも見えるところもクスッと笑えます。



帯締めにふれた貴方の指先をそのまま帯留めにしたかった/小路喜一 2020年6月29日・お題「留」


 なんと美しくて、官能的なお歌なのだろう!と思いました。
 和装の女性の帯締めに他人がふれる時というのは、着付けをしてもらう時かもしくは着物を脱がされる時のどちらかだと思うんですが、このお歌は後者なのではないでしょうか。
 きっと、この主体は着物で貴方とデートするのは初めてだったのではないかと思います。着物だと洋服を脱がされる時とはまた違う特別感があって、帯締めにふれる貴方の指がいつもより美しく思える。それは、そのまま貴方の指先を帯留めにしたいと願うほどに。
 おそらく、主体は、これから先この帯締めを使うたびに、この日のことを思い出すのではないでしょうか。 
 谷崎潤一郎は脚フェチでしたけども、純文学の中で描かれるフェティシズムのような、指フェチの短歌として忘れられない一首だと思います。