第1回 ベストヒットおとの日♪・3 アライアヤさん
3 アライアヤさん
アライアヤさんもサイかさんという筆名でも投稿されていたのですが、今回はアライアヤさんのお歌を3首ご紹介します。
①
三十年暮らした町に立ち込める「お前はよそ者」みたいな空気/アライアヤ
2021年12月27日「空気」
ものすごく不穏なお歌ですが、共感せずにはいられませんでした。
特に田舎ほどよくあることなのかもしれませんけど、その町で仲良く暮らしてゆくためには町の行事などにも積極的に参加して、日頃から挨拶やご近所付き合いをマメにして……という、積極的に集団の輪に飛び込んでゆく姿勢が必要になってきますし、個人プレーよりチームプレーを大切にする人でないと溶け込めない空気感はあると思います。そこで要領よくやれる人のことは大切にされるけど、それを一度でも断ったり、何か些細なことでその町の人の気分を損ねたりしようものなら村八分にされるような嫌な面というのも田舎にはあったりします。
たぶん、主体が暮らしていたのもそんな町で、しかも「お前はよそ者」みたいな空気の中で三十年も暮らさなければならなかったというのですから、どんなにきつかったでしょう。
長年暮らした町や故郷を懐かしがって詠む人はけっこう多い中、このお歌は、町への決別と、もう二度とこの町へは戻りたくないという強い思いが伝わってくるようで、それがむしろ気持ちよかったです。痛快なお歌だと思います。
②
多数決、えらばれなかった放課後の図書室だから見つけた詩歌/アライアヤ
2022年1月28日・お題「決」
学校で多数決を取る場面はいくつか考えられるのですが、おそらく、このお歌の多数決では所属する委員会を決めたのではないかと思います。仕事が楽そうな委員会だったり、放送委員会などはどこの学校でも人気なのではないかと思いますが、委員の数に対して希望者が多いので誰が委員に相応しいと思うかクラスで多数決を取るのでしょう。
主体が第一希望は何か他の委員になりたくて多数決で選ばれなくて図書委員になったのか、それとも最初から他に誰も希望者のいない図書委員を希望したのかまではわかりませんが、このクラスでは図書委員会は人気がなかったのだろうと思います。
でも、主体は放課後を図書室で過ごせる図書委員になったからこそ、詩歌との出合いがあったというのです。主体は詩歌の本を読んでみたことで、自分も短歌を短歌を詠むようになり、新しい世界が広がったのでしょう。
人生にはその時は不本意に思う場面に遭遇しても、振り返ってみるとその時の出来事のお陰で今の自分があると思えることがたびたび起こるものですが、この主体が他の委員会には所属できずに図書委員になれてよかったなあと思わずにいられません。
③
ごめんねも言えないくせに本当に愛してるとか笑わせんなよ/アライアヤ
2022年3月23日・お題「愛」
このお題でこのお歌ができるところがめちゃめちゃ気持ちいいと思いました。
「本当に愛してる」という日本人にはややオーバーな愛情表現がさらりとできてしまう人って、個人的にはちょっと軽薄だなと思ってしまうんですけど、このお歌に詠まれている人もどうやらそういうタイプのようですね。だって、「ごめんね」も言えないというのですから。
この人が主体の恋人か配偶者か、はたまた不倫相手なのかまではわかりませんが、本当に主体のことを愛してるのであれば、主体を傷つけたり怒らせたりするようなことはしないように気をつけると思いますし、万一そんなことをしてしまったとしてもすぐに「ごめんね」と伝えるはずです。謝りもせずに愛情表現だけされても信じられないし、余計腹立たしくなるだけですよね。
結句の「笑わせんなよ」で思わず拍手したくなるくらいですし、こんなに怒っているのにまだ「ごめんね」も言えない人だったら、私なら、一切の家事をボイコットしたり家出したりするかもなあなんて思っちゃいました。
アライアヤさんとも感想をお伝えした後でお話ができまして、②はご自分のお誕生日に自分のために詠まれた大切なお歌であることや、③はお友達のお話を聴いて生まれたお歌だと伺いました。素敵なお歌をありがとうございました。