本気子の部屋

短歌、回文、日常を綴ります。

第4回 ベストヒットおとの日♪・17 とますあきなすさん

 とますあきなすさんのおとの日のお歌はカウントした時点で24首ありましたので、3首ご紹介します。

 

 

ヨン様の切り抜きたちは時を経てコピー紙として生き延びている/とますあきなす

 2021年10月30日・お題「ペ・ヨンジュン

 

 とても面白いお歌です。2021年のお題が「ペ・ヨンジュン」なのがちょっと無茶題っぽさのある面白いお題でもあるのですが、それに見事に応えていると思います。

 

 日本でペ・ヨンジュンさんの人気に火がついたのは、NHKで『冬のソナタ』が放送された2003年のことで、あまりの人気の高さに「冬ソナブーム」と名付けられたりもしました。特に中高年の女性の人気がすさまじく、ペ・ヨンジュンさんはヨン様と呼ばれ、彼が来日すれば成田空港に3,500人ものファンが詰めかけ、韓国語を学習する人も増え、冬ソナのロケ地をめぐる聖地巡礼の旅へ韓国までゆく女性たちも急増するほどのブームで、ペ・ヨンジュンさんも日本のファンに「家族」と呼びかけるファンサービスぶりだったのを憶えています。

 

 ただ、ぶーむというのは永久に続くものではないわけで、韓流スターも次々と新しい人が有名になるし、役者さんたちも年齢を重ねるにつれ恋愛ドラマの主人公を演じることも減ってくるので、心変わりをするファンがいるのも自然なことかもしれません。

 

 このお歌も、主体本人か、もしくは主体のお母様やお姉様がかつては冬ソナブームでヨン様の切り抜きをするほどのファンだったのでしょう。けれど、2021年の時点ではもう切り抜きは処分したことがわかります。紙は再生紙として生まれ変わることができるので、そこに感傷や罪悪感はないのです。

 

 ヨン様の切り抜きを擬人化して「生き延びている」と表現したのがとても効いていますし、優しさも感じます。

 

 

この町の開花宣言待たずしてきみは逝きたり蕾のままに/とますあきなす

 2022年3月23日・お題「言」

 

 きみと主体との関係まではわかりませんが、きみも主体もこの町で暮らしていて、きみは若くして亡くなってしまったことがわかります。

 

 きみの死因が病気なのか、事故なのか、事件なのかも明かされてはいないんですけど、きみにはおそらく夢や目標があって、「蕾のままに」とあるのて、それを叶えることなく、まだ寒い時期に亡くなったのでしょう。

 

 仮に、主体ときみが同級生なのだとしたら、ふたりは受験生で、合格発表を待っていた時期の出来事なのかもしれません。きみは永遠に蕾のままだけれど、主体も他の同級生も次々に桜を咲かせて、みんないつかは大人になってゆく。けれど、主体にとってはきみはずっと忘れられない大切な存在なのではないだろうかと思えるお歌でした。

 

 

くだらないプライドを捨て流される生き方も良し我が汽水域/とますあきなす

 2022年4月14日・お題「流」 

 

 

 恥ずかしながら、今まで生きていて汽水域という言葉の意味を知らなかったので辞書で調べたのですが、自分の普段使わない言葉が詠み込まれているのに、一目でめちゃめちゃカッコいい!と思ったお歌です。

 

 汽水というのは、河川などから流出する淡水と海洋の海水とが混ざり合ってできる中間的な塩分濃度の水で、汽水の存在する河口域や湾を汽水域と呼ぶそうなんですけども、汽水域と主体の生き方を重ねたこのお歌は、美空ひばりさんの名曲『川の流れのように』のようなスケールの大きさを感じました。

 

 特に、助詞の「も」の使い方がすごく効果的で、主体は、くだらないプライドを捨て流される生き方を肯定すると同時に、プライドを持った生き方も肯定していて、それが混ざり合うところを汽水域だと表現しているのだと思います。

 

 生きていると白か黒かはっきりとした答えを迫られることがけっこうあるのですが、グレーではいけないのだろうか?と思うことが多くてもやもやしていたんですけど、このお歌に出合って、どんな自分の選択も後悔しなくていいんだよと励まされたような気持ちになれました。