本気子の部屋

短歌、回文、日常を綴ります。

第2回 ベストヒットおとの日♪・9 新妻ネトラさん

 新妻ネトラさんのおとの日のお歌は22首ありましたので、今日は3首ご紹介します。



他人しかいない孤独は心地いい貴方といると寂しいのにね/新妻ネトラ

 2021年6月23日・お題「他」


 とても共感したお歌です。
 
 私も頻繁に会う友達はいないし恋人もいないしひとり暮らしなので、たいていの行動はひとりですることが多いです。ひとり外食、ひとりカラオケ、ひとり旅、ひとり動物園などですが、友達や恋人や家族で来ている人たちも多い中でひとりなので、周囲から見たら孤独に見えるのかもしれないけれど、不思議と寂しいなんて思わずに楽しめています。このお歌の主体もきっとそうなのでしょう。

 さらにこの主体は、「貴方といると寂しい」と続けています。おそらく貴方は恋人で、付き合い始めの楽しい頃を過ぎて、お互いのいいところだけではなく嫌なところも見えるようになってきていて、小さなすれ違いなどでもすごく不安になってしまうような、好きなのにふたりの今後について前向きに考えられないような時期なのだろうと思いました。

 浜崎あゆみさんの『SURREAL』という楽曲の歌詞にも「ひとりぼっちで感じる孤独より ふたりでいても感じる孤独の方が 辛い事のように」という箇所があるのですが、自分にとって大切だと思える相手ほど、一緒にいると孤独だと思えてしまうことがあるのは、多くの人に共通しているようです。

 それはおそらく、他人に対しては何かを期待することも頼ったりすることもほとんどなくて自立心が強くなるからなのではないかと思います。けれど、心から信頼できる大切な人に対してはどうしても甘えたくなってしまって、その欲求が満たされないことで寂しさを感じてしまうのでしょう。ただ、それはたぶん愛ではなくて執着なのだろうと思います。

 いつか、ふたりでいても寂しくならない人と出会えた時が本当の愛の始まりなのかもしれないけれど、この主体の幸せを祈らずにいられなかったし、自分の幸せについても改めて考えることができました。



神の子も仏もみんなドトールで休憩するよ立川ではね/新妻ネトラ

 2021年11月16日・お題「立」


 このお歌はたぶん、私はまだ読んだことはないのですが、中村光さんという方の描かれた宗教を題材にした『聖☆おにいさん』という漫画作品をモチーフに詠まれたものではないかと思います。というのも、この作品は、世紀末を無事乗り越えたブッダとイエスが、有休を取って下界でバカンスしようとして、東京都立川市の安いアパートを借りてルームシェアをしているという設定らしいからです。

 ただ、このお歌は、『聖☆おにいさん』という漫画があることを知らない人が読んでも面白く感じるお歌なのではないかと思います。

 立川って駅周辺はまあまあ都会なんですが、緑が多くて、静かで落ち着いた住宅街が広がっていて、都心に比べて家賃も安くて、とても暮らしやすそうなところなので、浮世離れしている神の子イエスブッダドトールで休憩していても違和感がなさそうだなと思うのです。これが同じJR中央線の新宿だと疲れてしまいそうだし、高尾だと自然はあるんだけど、特にブッダが修行時代を思い出してあまりリラックスできないかもしれず、立川だとちょうどよさそうな感じがします。

 これから先、立川を通過するだけでもこのお歌を思い出しそうですし、立川のドトールに寄ったらついイエスブッダを探してしまいそうです。



咲いている花を見るため花びらを踏む人間に生まれても春/新妻ネトラ

 2022年3月28日・お題「桜」


 全体的に美しく柔らかい表現なのに、人間の業の深さを痛感するお歌だと思います。小説だったら芥川龍之介の作品のように、読みやすいんだけど読む人の心を抉る力があります。

 以前、ブータン国王夫妻が来日された時に、ブータン人がいかに命を大切にする国民なのかというエピソードで、ブータンのお花屋さんには切り花は売っておらず、ほぼ鉢植えのお花ばかりだというものがあって、その時は私も反省して、今までに植物に対して優しくなかった自分を恥じたりもしたのですが、正直、このお歌を読むまでその時のことを忘れていました。

 このお歌の主体もブータン人のような優しさのある人なのでしょう。普通はお花見に夢中になっている時に、足元に散った花びらを踏んでいることなんて意識しない人が多いのではないでしょうか。だからといって、その行為を非難したり責めているわけではなく、人間とはそういう生き物なのだと達観しているようにも見えます。

 今は人間として生を享けているけれど、来世は何に生まれ変わるのかはわからない。でも、平等に毎年春は巡ってくる。まるで、仏教の寓話みたいな雰囲気もあるお歌です。