本気子の部屋

短歌、回文、日常を綴ります。

第1回 ベストヒットおとの日♪・5 キナコモチコさん

5 キナコモチコさん

 キナコモチコさんのお歌も3首ご紹介します。


「剃刀の代わりにペンを持ってくれ」貴方に言われ六年無傷/キナコモチコ
  2018年6月11日「自由詠」

 ものすごく深い愛を感じる、主体と貴方のふたりの強い信頼関係の伝わってくるお歌だと思いました。

 主体には、剃刀を持っていた時期があって、おそらくそれは他人を傷つけるためではなく、自分を傷つけるためのものとして持っていたのではないかと思います。そんな主体を心配した貴方が
「剃刀の代わりにペンを持ってくれ」
と主体に告げたというのです。

 キナコモチコさんは短歌も作られてイラストも描かれる方でもあるので、私はこの主体=作者だと思って読んだんですけども、結句の「六年」という赤ちゃんが幼稚園の年長さんになるくらいまでのけっこう長い年月にリアリティを感じますし、主体の側に貴方がずっといてくれて本当によかったと思いました。



まあいいか 仕事も恋も疲れたしやよい軒にてご飯おかわり/キナコモチコ
  2020年9月24日・お題「開き直って一首」

 うたの日は、時々ちょっと変わった面白いお題が出ることがあって、このお歌のお題もそうだったんですけど、とても気持ちのいい、誰も傷つけない開き直りなのがいいなと思いました。

 やよい軒さんはご飯のおかわりが無料のチェーン店の定食屋さんなんですけども、よく食べる男性や育ち盛りの学生さんなどを除くと、ご飯のおかわりをしないという人もいると思います。特に、少食の女性やダイエット中の女性、本当はおかわりするのは余裕だけど恋人や好きな人の前では食欲を抑えている女性などはおかわりはしないでしょう。
  
 でも、この主体は今「恋も仕事も疲れた」状態であり、おまけにお腹もとても空いているんでしょう。ひとりでやよい軒さんに入って、誰に気兼ねをすることもなく、ご飯をおかわりしてもりもり食べて元気を出そうとしている姿が健気で、心から応援したくなりました。



コンビニのレジ横にある羊羹くらいの存在感がほしい日/キナコモチコ
  2021年7月14日・お題「存」

 このお歌は2ヶ所の句またがりで声に出すと読みにくさもあるお歌なのですが、内容がとても好きでした。

 私はそんなに羊羹が好きな方ではないので、このお歌を読んだ時に、コンビニのレジ横に羊羹なんてあったかな?とふと考え込んでしまったんですけども、きっと、羊羹が好きな人にとってはコンビニのレジ横の羊羹がとても目立って見えるのではないかと思います。そういう、人によって存在感の大きさの違うであろうものを詠み込んだところに面白さを感じます。
そして、たぶん、主体は羊羹が好きなのか、もしくは、主体の好きな人や大切な人が羊羹が好きなのかもしれないと思いました。

 この日が主体にとってどんな日なのかはわからないんですけど、自分や自分の好きな人や大切な人がコンビニにゆくと必ず目に留まって買いたくなる羊羹のように、自分にも注目してほしいと思うような、何らかの勝負の日なのかもしれません。

 もし仮に、羊羹が好きではない私がこのお歌を詠んだとしたら、存在感が小さいということになってしまって、コンビニのレジ横にある目立たない羊羹くらいの存在感でもいいからほんのちょっと私のことも見てほしいというような意味合いの暗めの歌意になってしまったと思うのです。勝負の日の歌だったとしたら、羊羹じゃなくて肉まんとかファミチキくらい目立つ同じ音数の食べ物にしたような気がします。

 何気ない日常をさらっと詠んだお歌なんですけど、読む人に私だったらと考えさせる力のあるお歌は、とても素晴らしいと思います。


 

 第1回は以上5人の11首のお歌をご紹介しました。皆さん、それぞれに素敵なお歌をありがとうございました。

 第2回は、本来なら4月10日の予定なのですが私が3日間用事で外出するためお休みさせていただく可能性があります。その時はまたアナウンスさせていただきます。