本気子の部屋

短歌、回文、日常を綴ります。

第4回 ベストヒットおとの日♪・16 月硝子さん

 かなりご無沙汰しております。体調不良がずっと続いていたので、なかなか続きを書けませんでした。大変お待たせしました。

 

 月硝子さんには、カウントした時点で27首のおとの日のお歌がありましたので、3首引きます。

 

父送り白猫送りミケ送り母を送って緑濃き庭/月硝子

 2021年8月10日・お題「自由詠」

 

 1首の中で登場する動詞が「送る」のみなのですが、それを4回繰り返すことで、主体の生きてきた歳月や、愛する御家族(猫たちも含む)とのお別れが4度もあって、この家には主体ひとりになったことが伝わってきます。ここで送った御家族や猫たちは、送ったらまた帰ってきて

「ただいま」

と言ってくれるのではなく、永遠のお別れなのだと思います。

 

 大切な者たちの死を詠んでいるお歌でありながら、悲しいだけの印象にならず、むしろ、明るさのあるお歌に思えるのは、猫の白やミケ、そして、庭の濃い緑というように、命あるものの美しい鮮やかな色が詠み込まれているからなのではないかと思います。

 

 特に結句の「緑濃き庭」からは木々の強い生命力が感じられ、主体も何度も悲しみを乗り越えて懸命に生きようとしている姿を想像させます。また、この庭の緑は、主体のご両親のどちらかが育ててこられたのかもしれません。今後は主体がこの緑の世話をして、命あるものを守ってゆこうとする強い意志も感じました。

 

 

泥落とす化石学者の手さばきで顔写真から消すほうれい線/月硝子

 2021年10月3日・お題「顔」

 

 初句か三句にかけての手さばきを表現する比喩として、「泥落とす化石学者の」としたところがとても面白いと思います。発掘された化石は、泥をきれいに落とすのがこれまでずっと常識だったらしいのですが、近年ではDNAまで落としてしまう可能性があるので泥をきれいに落とすことに慎重な学者さんも多いそうなのです。

 

 この主体は、顔写真からほうれい線だけを消そうとしているわけですから、おそらく、ほうれい線以外の部分は消えないように、少しずつ丁寧に消しているのではないでしょうか。それもかなり慣れた手さばきで。

 

 たぶん多くの人が顔写真の修正はバレないようにひっそりとしたいのではないかと思いますが、ユーモアのある表現で包み隠さず詠まれているこのお歌はとても清々しいです。

 

 

フルーツを盛って花火を突き立てたブルーハワイは若さの墓標/月硝子

 2022年6月18日・お題「好きなカクテル」

 

 ブルーハワイというと真っ先にかき氷が頭に浮かぶんですけども、このお歌は、私のようにカクテルにあまり詳しくなくても、ブルーハワイというカクテルがどんなカクテルなのか映像が浮かぶのがとてもいいなと思いました。

 

 カクテルの色もブルーで鮮やかなうえに、フルーツを盛って花火まで突き立てられているというブルーハワイはとても華やかで、いかにも、お酒の味を知ったばかりの20代の若い人たちが好みそうですし、インスタ映えしそうです。

 

 主体はもうブルーハワイは卒業して、ちょっと冷めた目でブルーハワイを「若さの墓標」と呼んでいるのもユニークです。ブルーハワイの青さには、若くて未熟という意味もあると捉えているのかもしれません。