本気子の部屋

短歌、回文、日常を綴ります。

第6回 ベストヒットおとの日♪・26 梅鶏さん

 あけましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願い致します。

 本当はもっと早くにTwitterのスペースでお届けできるはずだったんですけど、今年はなぜかもう花粉がかなり舞ってるっぽくて、花粉症の症状が酷かったものですから、病院で薬をもらうまで延期する予定だったんです。でも、ここ数日の雨で症状が止まってるので、今夜開催することにしました。お待たせいたしました。

 

 梅鶏さんのおとの日のお歌は69首ありましたので、3首のご紹介です。

 

 


両腕のタトゥーを覆い愛し子と二人三脚する運動会/梅鶏

 2021年9月17日・お題「長袖」 

 

 お題は詠み込まれていないけれどお歌の内容でしっかりお題の伝わる、せつなくも温かいお歌だと思います。

 

 タトゥーって気軽にファッションとして楽しめるものではなくて、一度肌に彫ってしまうと除去するのも大変なものだし、日本ではどうしてもヤクザのイメージと結びつけられてしまうので、温泉やプールにも入ることのできない場合が多いと思います。けれども、この主体の両腕にはタトゥーが彫られていることが初句と二句でわかります。

 

 もし、主体が今も独身なのであれば、自分の気持ち最優先で好きなタトゥーを見せて生活することになんの抵抗もなかったのかもしれません。だけど、主体には今、「愛し子」と呼ぶほどに大切な子どもがいて、子どものために暑くても長袖で両腕を覆ってまで二人三脚に出場するくらいの子煩悩な親御さんになったのです。

 

 たぶんそこには、自分のタトゥーが見えてしまうことで子どもがいじめられるようなことがあってはならないという配慮もあるのではないかと感じます。

 

 このお歌からは、過去の自分を変えることはできないけれど、今の自分が変わることはできるし、どんな人でも今も未来も幸せに生きてゆくことはできるというメッセージも伝わってくるような気がします。

 

 


掌の指紋を潰すほど強く重ね合わせた始発の窓で/梅鶏

 2022年5月13日・お題「恋」

 

 こちらのお歌もお題は詠み込まれていないのですが、内容だけで恋のお歌、それもとても情熱的な恋のお歌だとわかります。

 

 「掌の指紋を潰すほど強く重ね合わせた」とあるので、普通に恋人同士がお互いの掌を重ね合わせている光景だと思って読んでゆくと、結句で「始発の窓で」と明かされていて、ふたりは掌を始発の電車や新幹線の窓ガラス越しに重ね合わせていたことが判明するのです。

 

 1950年の日本映画に『また逢う日まで』という作品があり、主人公の男女がアトリエの窓ガラス越しにキスするシーンが日本映画史上最も美しいキスシーンだと言われているのですが、このお歌のイメージともちょっと重なるように思います。

 

 普通によく逢えるカップルなのであれば、どちらが電車に乗ったら手を振って別れるだけだと思うのですが、窓ガラス越しに掌を強く重ね合わせるくらいだから、遠距離恋愛などであまり逢えないふたりなのかもしれません。すごく想像の広がるお歌でした。

 


この歳になっても嫉妬ばかりしてえぐ味の未だ抜けぬ筍/梅鶏

 2022年12月7日・お題「えぐ味」

 

 

 まず、「えぐ味」というお題がとても難しいと思うんですけど、それをとても上手に料理されたなあと感心しました。

 

 上の句で、すごく正直に自分の嫌な部分をさらけ出していること自体が、まるで人間のえぐ味のようですし、下の句でえぐ味のある食べ物の具体として筍を詠み込んでいるのも効いていると思います。

 

 筍といえば、わたしも以前、

 

人生の折り返し地点なのだろう たけのこなんて美味しくなって/澪那本気子

 

と詠んだこともあるくらい、その美味しさになかなか若いうちには気付けない食べ物でもあると思うのですが、梅鶏さんのお歌はもう若くないのに筍のえぐ味が抜けずに美味しさを感じることのできない理由として、嫉妬ばかりしていることを結びつける発想が独創的で素晴らしいと思いました。