第4回 ベストヒットおとの日♪・20 涸れ井戸さん
涸れ井戸さんのおとの日のお歌はカウントした時点で48首ありましたので、3首お届けします。
①
説得のこつは本音を混ぜることハンバーグにはピクルスが合う/涸れ井戸
2018年7月31日・お題「混」
すごくよく考えて練られているお歌だと思います。
誰かを説得するには表面的な言葉だけでは相手の心を動かすことはできないので、嫌われてもいいから本音を混ぜる勇気が必要なことって確かにあると思います。
おそらく、「混ぜる」という動詞から連想した料理が下の句のハンバーグだったのだろうと思いますけども、ハンバーグを作るにはハンバーグの味のじゃまにならない玉ねぎや卵や食パンなどの優しい味のつなぎを混ぜてゆきますが、これは、誰かの心を開かせるために優しい言葉で話しかけてゆく様子と重なるから不思議です。
特に秀逸なのが結句のピクルスなんですけども、ピクルスが苦手でそれ単体では食べられないという人もけっこういるし、ハンバーガーのピクルスも抜いてもらう人もいるくらいですけど、美味しいと感じる人も多い組み合わせです。このお歌ではピクルス=本音なのでしょう。
説得が必ず上手くゆくとは限らないけれど、この主体はいつも嫌われる勇気を出して本音を混ぜているのだろうなと感じました。
②
約束はできないですと告げられる絶対嘘をつかない人に/涸れ井戸
2019年5月25日・お題「絶」
ものすごくせつないです。
この絶対嘘をつかない人が、もしも主体の恋人だったらと仮定して読んだのですが、きっと主体はこの人の絶対嘘をつかないところも大好きなのではないかと思います。
でも、主体はこの人から
「約束はできないです」
と告げられてしまっています。このお歌には、主体の心情は詠み込まれていないのだけど、余白の部分に、そう告げられてしまったことのショックや悲しみが表現されている気がするのです。
たぶん主体は、この人に約束してもらえるという期待もあったのだろうし、絶対嘘をつかない人との約束なら必ず守られるという安心感もあったかもしれません。おそらくそれは、将来結婚をする約束など、主体を幸せにしてくれる約束を想定していたのではないでしょうか。
絶対嘘をつかない人が約束してくれないということは、この先、主体の望みが叶う可能性は絶対ないことを意味しています。主体に恋の終わりが見えてしまったのではないでしょうか。今のこの状況が嘘であってほしいという心の叫びまで聞こえてきそうなお歌です。
③
百円のアボカドの山無意識にいびつなやつを選んでしまう/涸れ井戸
2020年12月24日・お題「比」
お題は詠み込まれていないのですが、百円のアボカドの山というチョイスが絶妙だと思います。百円で売られているものがいろいろある中で、アボカドほど当たり外れの大きいフルーツって他にはないからです。普通の人はアボカドを切った時に失敗したくないから、なるべくヘタがちゃんとついていて、色味も良く、形のきれいなものを意識的に選ぶのではないでしょうか。
けれどこのお歌の主体は、無意識にいびつなアボカドを選んでしまうというのです。それは一体何故なのか想像を膨らませることができるのもこのお歌の魅力なのではないかと思います。
ひょっとしたら、主体には食品販売の経験があって、商品が売れ残って処分するしかない心苦しさが理解できてしまうから無意識に売れ残りそうなアボカドを選んでいるのかなとか、または、主体には外見を理由に差別されて傷ついた経験があり、無意識にいびつなアボカドに自分自身を重ねてしまうのかとか、いろんな想像をしました。
主体は無意識だと言っていますけれども、無意識に優しい行動のできる人の優しさは本物だと思います。とても大好きなお歌です。