本気子の部屋

短歌、回文、日常を綴ります。

第6回 ベストヒットおとの日♪・27 空岡邦昂さん

 空岡邦昂さんは31首のおとの日のお歌がありましたので、3首ご紹介します。

 



ちょっとだけ沈黙すればあの頃の初めましてが思い出される/空岡邦昂

 2021年10月9日・お題「黙」

 

 沈黙ってよくネガティブに捉えられがちで、会話が弾まないことはつまらないと思われているからだろうか?と不安になってしまう人もいると思うんですけど、本当に好きな人や心を許せる人と一緒にいると沈黙も心地よいと感じるものだったりします。このお歌からもそんなふたりを想像できます。

 

 ちょっとだけ沈黙することで、いつでも初めて出逢った頃の気持ちに戻れるなんて、とても素敵だなと思いますし、このふたりが夫婦なのだとしても、ずっとお互いに恋をしていられるんじゃないかと感じました。

 

 


僕たちは虚数であった お互いが絡まることでマイナスになる/空岡邦昂

 2022年1月18日・お題「数」

 

 数学は苦手なので、まず、虚数とは何かということを調べたのですが、2乗したときに0未満の実数になる数を指し、その代表的なものが虚数単位「i」で、i×i=-1 となるそうです。

 

 このお歌は、虚数単位「i」に英語の一人称の「I」も重ねて詠まれたものなのだろうと思いました。虚数の「虚」は「むなしい」とも読みますが、このお歌の僕たちからもすごく虚しさが伝わってきます。

 

 おそらく、もうお互いに心は離れていたのに、身体だけで繋がっていたふたりだったのではないでしょうか。愛のない行為を繰り返すたびに虚しさばかりが募ってゆく情景を思い浮かべることのできる、大人の数学短歌だと感じました。

 


もうそろそろ怒り狂って良い頃と考えている鳳仙花たち/空岡邦昂

 2022年8月12日・お題「えて」

 

 個人的に花鳥風月の歌を作るのが苦手なのですが、このお歌は、鳳仙花という花の丁寧な観察の光るお歌で、擬人化にも無理がないし、お手本にしたいお歌だと思いました。

 

 短歌には季語はいらないですけども、季節感のあるお歌というのはやはり素敵で、このお歌の詠まれた8月ってまさに暑さにとても強い鳳仙花の咲き誇る月なのもいいなと思いますし、味が熟して乾燥すると自然に弾けて種が飛ぶ様子を「怒り狂って」と表現されているユーモアも素晴らしいです。

 

 また、これは深読みしすぎなのかもしれないけれど、この鳳仙花たちは、何かにじっと耐え続けてきたけれど、そろそろもう我慢の限界で怒りが爆発してしまいそうな人たちの比喩としても読めると思いました。

 

 きっとこの先、鳳仙花を見ると思い出すお歌だと思います。