本気子の部屋

短歌、回文、日常を綴ります。

第7回 ベストヒットおとの日♪・32 唐草もみじさん

 唐草もみじさんのおとの日のお歌は20首でしたので3首引きます。

 


明日からのキミとボクとの関係の答え合わせが出来た記念日/唐草もみじ

 2021年6月13日・お題「記」

 

 すごく可愛らしくて初々しい恋のお歌です。

 

 まず、きみとぼくの表記がひらがなでも漢字でもなくカタカナのキミとボクであることから、このふたりの若々しさを感じます。

 

 次に、初句から結句の「出来た」までがすべて「記念日」に係っている思いきった構成にも若さが溢れているなと思います。

 

 恋人同士にはいろいろな記念日がありますけども、ここで詠まれている記念日はこのふたりにとって最初の記念日なのでしょう。「キミとボクとの関係の答え合わせが出来た」とあるので、今日までふたりは友達だったのかもしれないし、先輩と後輩だったのかもしれないし、恋愛関係ではなかったのだと思いますが、お互いを好きであることが判明して、明日からは恋人としてお付き合いすることになったのでしょう。

 

 それだけのことをこれだけ遠回しな表現にしたところにこのお歌の工夫があり、詩情も生まれたのだと思いました。

 


あといくらヒモの彼氏に課金すりゃSR(スーパーレア)に進化するのか/唐草もみじ

 2021年10月2日・お題「課金」

 

 他人の不幸を笑ってはいけないんだけど、あまりにもあっけらかんと明るく表現されているので、めちゃめちゃ笑ってしまいました。

 

 このお題でスマホゲームやサブスクなどではなく、人間に課金するという発想が出てくるのが柔軟だなあと感心します。それもとてもストレートに「ヒモの彼氏」という強烈なインパクトのある言葉で、主体が今までずっと彼に貢いできたことが伝えられています。

 

 さらに驚きのあるのが下の句で「SR(スーパーレア)に進化する」と願って、主体は彼に課金してきたのが判明することです。ここでいう進化は、おそらく、彼がヒモの状態から抜け出して、普通の仕事に就くのはぜんぜんレアではないと考えられるので、彼には何か大きな夢があるのではないか?と想像できるのですが、主体はきっと彼の夢はいつか叶うと信じて、自分は働いて応援してきたのではないでしょうか。

 

 この主体に好感が持てるのは、今まで彼に貢いできたことを笑い話にしていること、課金というのは最終的には自分の意志ですることであり、いつまでも進化しないヒモの状態の彼を責めることなく、自分の責任だという自覚が伝わってくるからなのではないだろうかと感じました。

 


淋しさを貪るような仲だから別れは俄雨が似合うね/唐草もみじ

 2022年3月8日・お題「俄雨」

 

 偶然、唐草もみじさんのお歌はすべて恋のお歌を引かせていただいたのですが、1首目がとても初々しい恋のお歌、2首目がとてもユーモアのある恋のお歌だったのに対して、3首目のお歌はとても落ち着いた大人の恋の終わりのお歌です。

 

 まず、「淋しさを貪るような仲」という表現がとても大人っぽくドキッとさせられます。相手のことを愛おしいから一緒にいるのではなく、淋しいから会うふたり。それも貪るというのがすごく生々しく官能的で、愛はなくても性欲だけで繋がっていた関係なのではないかと思わせます。

 

 でも、当然そんな関係をいくら重ねても、心まで満たされることはなかったのでしょう。別れを決意したふたりは、急に降りだしてすぐに止んでしまう俄雨の時を選ぶのです。

 

 お互いに淋しい時だけに会っていた気まぐれなふたりと、俄雨のイメージがすっと重なる、美しい別れだと思いました。