本気子の部屋

短歌、回文、日常を綴ります。

第6回 ベストヒットおとの日♪・28 真崎あやさん

 真崎あやさんは16首のおとの日のお歌がありましたので、3首ご紹介します。

 



あきらめることは正しい流れ星見たような気がしただけだった/真崎あや

 2022年4月14日・お題「流」

 

 自分自身の選択を、それも、一見、前向きではない選択を正しいことだと言い聞かせるのって、ものすごく勇気の要ることだと思います。ここではその選択が「あきらめること」なのですが、日本人はあきらめないことを美徳とする傾向があるので、主体もきっと、長い間あきらめずに頑張ってきたことがあったのではないかと想像できます。それでも、あきらめることは正しいという結論を出すまでにはすごく悩んだのではないでしょうか。

 

 自分が努力するのはもちろん、流れ星を見つけた夜は願いが叶うように祈ったりもしたのでしょう。でも、あきらめることを決めたから、その時に見た流れ星も気のせいだったと思い込むことで、自分の正しさを証明しようとしているのだろうと思いました。

 

 どんなに頑張っても実現できないことも生きていれば必ずあって、その現実をしっかり受け止めることで次の目標に向かって動き出せるということもあります。心から、主体の幸せを祈って応援したくなるお歌でした。

 


泣き止まぬ子になお乳を含ませる母性はときに狂気だろうか/真崎あや

 2022年7月23日・お題「乳」

 

 読んだ瞬間に背筋がぞわっとした、まるで、湊かなえさんの小説の帯の一文にあってもいいくらいの、すごく引き込まれるお歌でした。

 

 赤ちゃんは泣くのが仕事だとは言われているものの、育児をしているお母さんたちは楽天的な考え方のできる人ばかりではなくて、赤ちゃんが泣くたびにどうしたら泣き止んでくれるのか色々試してみても泣き止んでくれずに途方に暮れて、自分を責めてしまう人もいると思います。このお歌の主体もたぶんそんなお母さんのひとりで、泣いている赤ちゃんが母乳を欲しがっているのかと思って授乳しても、泣き止んで暮れなかったのでしょう。それでも、他に思い当たる原因がないから、もっとお乳を飲ませようとするのですが、そんな自分の母性を狂気かも知れないと思ってしまうほど追い詰められているのが伝わってきます。

 

 この主体のようなお母さんが明るい気持ちで育児できるように、悩んだ時に気軽に相談して助けてもらうことのできる環境が整うといいなと思いますし、泣いている赤ちゃんに会えたら幸運が訪れると信じられている国もあるように、私たち日本人も、赤ちゃん連れの親子に対してもっと温かい眼差しを向けることの必要性を感じたお歌でした。

 

 


かつて時給700円を詰め込んで買った車が下取りに出る/真崎あや

 2022年9月24日・お題「バイト」

 

 まず時給700円という金額について考えたいのですが、私が大学2年生だった25年前の歯科助手のバイトの時給が850円だったので、おそらく主体の住んでいたのは、東京以外の地方だったのではないかと思います。決して高くはない時給700円のバイトをしてこつこつ貯金しながら、たぶん、車がないと生活してゆくのが厳しい場所だからこそ、高校を卒業したくらいにすぐ車を買う必要があって、バイト代のほとんどを使わなければならなかったのではないでしょうか。たぶん、それだけでは頭金くらいにしかならなくて、ローンを組んで何年もかけて支払った大切な車なのではないかと思います。

 

 そんな車も買い換えることになって、長く乗ってきた昔の車ではあるけれど状態はよくて、下取りしてもらえることになったのでしょう。

 

 主体の真面目で誠実な人柄までも、一台の車を通して伝わってくるようなお歌だと思いました。